活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2016.08/01 観察は、科学者専用の行為か(4)

刑事コロンボの物語では、必ず最初に事件が描かれ、事件が警察に連絡されてその現場にコロンボが現れる形式である。これは倒叙探偵小説と呼ばれるカテゴリーの物語展開方法である。
 
最初に示された現場には、刑事コロンボが登場して観察を始めた場所が、必ずしも犯行現場ではなかったという事件もあった。また、事件の現場が犯人により偽装されていた事件もあった。しかし、観察しているコロンボの立場では、そのようなことは事件が解決してから分かる事実であり、この真相をあぶり出すコロンボの仕掛けが話を面白くしていた。
 
現場が真実であろうと偽装された現場であろうとコロンボは真摯に観察を繰り返す。時には自分が被害者になったつもりで何度も何度も倒れてみたりする。すなわちコロンボは実践主義者なのだ。ホームズのように仮説をたてながら事件を解決するのではなく、現場における体験をベースに事件を解決してゆく。
 
そのプロセスは一見科学的な推論をしているように見えるが、決して科学的ではない。彼の場合には、考えられることを自分で実行してみて矛盾を見つけ出してゆく非科学的な試行錯誤法である。ホームズのように仮説がはずれたら、ベーカー街にもどり再度ワトソンと仮説を練り直す、などということをしない。
 
犯人を見つけ出すまで、試行実験を幾度となく繰り返すのである。さらには、その試行実験の蜘蛛の巣に犯人が引っかかるときもある。コロンボでは、名探偵ホームズではおきまりとなっている推論を立てるシーンよりも犯人との駆け引きのシーンが多い。
 
すなわちコロンボの問題解決法は、科学が生まれた時代に同時に誕生したホームズと異なり、極めて非科学的な方法である。それも現場という結論の場を観察しながらよれよれのレインコートと人なつっこい笑顔で犯人(答え)に迫ってゆくヒューマンプロセスである。
 
 
 

カテゴリー : 一般

pagetop