2016.08/04 観察は、科学者専用の行為か(5)
ゴム会社で30年以上経った今でも続いている高純度SiCの事業は、非科学的なプロセスで研究シーズが誕生し、科学技術庁無機材質研究所(以下無機材研、現在の物質材料研究機構)における一発芸で技術ができあがっている。
この技術は、フェノール樹脂天井材の開発が完了し、余った液体のフェノール樹脂を処分するために一日かけて固体化(反応させてゲル化)した作業で研究シーズが見つかっている。
廃棄すべきフェノール樹脂をポリエチルシリケートと混合しながらゲル化させて捨てやすいように固体化していった。フローリー・ハギンズ理論をご存じの方ならば、これでは捨てやすいゴミの状態にならないことに気がつかれるだろう。
フェノール樹脂とポリエチルシリケートは、科学理論に基づくと絶対に均一にならない組み合わせで、固体化させようと酸触媒を加えると、フェノール樹脂だけで固まり、ポリエチルシリケートはフェノール樹脂の反応で生成する水と酸触媒の効果で加水分解しシリカを沈殿させる。
すなわちこの二種類のポリマーを均一に混合し、SiCの前駆体に用いる、という発想は科学に精通していると出てこない。だから、当時公開されていた特許もフェノール樹脂とシリカの組み合わせか、ポリエチルシリケートとカーボンの組み合わせのいずれかをSiCの前駆体に用いる技術だけが出願されていた。そしてこの新技術の企画をゴム会社で提案したときには、覚悟はしていたが周囲から馬鹿にされた。
馬鹿にされてもその技術に拘ることができたのは、科学的な仕事の進め方は、時に未知の自然現象を排除する、と指導社員が教えてくださったからだ。すなわち科学ですべての自然現象を説明できるならば、もう科学の研究を大学で行う必要が無いはずであるが、未だに大学では研究が続けられている。
そして永遠に人類は自然現象をすべて科学で説明できないかもしれない、という言葉を指導社員は言われた。当方はこの言葉を初めて聞いたときに、そうかもしれない、と素直に納得した。担当していたゴム材料の実験データについて、教科書通りではなくその理解に苦労していたからだ。
目の前の実験データと論文とどちらが信頼できるのか?そのような問いをし続ける濃厚な3ケ月間だった。カオス混合という言葉を初めて聞いたときでもある。新入社員時代に出会った指導社員は、非科学的方法を真剣に考えるきっかけを幾つかくださった。
カテゴリー : 一般
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