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2016.08/06 観察は、科学者専用の行為か(7)

フェノール樹脂とポリエチルシリケートの反応を観察しながら廃棄物処理をするのは楽しかった。この作業のゴールは、フェノール樹脂をすべて廃棄することであり、他の制約は何も無かった。ゆえに様々な合成条件を思いつくままに試していた。
 
目の前の反応を観察していると不思議なことに必要な触媒量が見えてくるようになった。また、様々な酸触媒を試したが、酸触媒の構造と反応の関係も見えてきたような気がした。
 
何となくベスト条件が分かったような気がしたところでフェノール樹脂が無くなった。1ケ月後には無機材研留学という少し忙しい時であったが、天井材の開発が無事計画通り完了していたので、気楽であった。
 
留学して半年後、人事部から無機材研に電話がかかってきた(注)。この電話がきっかけで、1週間無機材研で自由な研究ができる時間を頂けた。そしてその自由な時間に、高純度SiCの新合成法の技術を完成させた。
 
現在ゴム会社でSiCの前駆体合成に使われている酸触媒がこの時見いだされた酸触媒と異なる点以外は、ほとんど同じプロセスが30年間採用されている。
 
高純度SiC製造技術に関して基本的なプロセスが無機材研でできあがるまでに、仮説設定などしていない。試行錯誤の実験をたった1日行っただけである。すべて過去の経験と電気炉の前におけるお祈りという非科学的なプロセスだった。しかし、30年も事業として続く技術ができたのである。
 
(注)自由記述の昇進試験の結果が不合格という連絡だった。「あなたが考えている新事業について書いてください。」というのが試験問題であり、今でも問題と解答を記憶している。そしてこの時の解答が間違いでなかったことは、ゴム会社で30年間解答通りの事業が続いていることで明らかである。無機材研の総合研究官へ電話がかかり、当方が呼び出された。I総合研究官の横で取り乱すつもりは無かったが、ショックでしばらく沈黙したのを記憶している。I総合研究官は、当方のモラールアップのために試験問題の解答に書いたアイデアを実験してみなさいと、優しくいってくださった。そして、一週間後は、実験が途中でも従来通り元気に仕事をしてください、と。この日から5日後には、真っ黄色の高純度SiC微粉が世界で初めて合成された。この出来事でサラリーマン生活が180度変化するのだが、ゴム会社の研究所へ戻ってからは大変なことばかりでやがて転職するような出来事が起きた。経営幹部の方々の激励があり、何とかS社とのJVという形で事業を立ち上げ、悩んだが誠実真摯な行動という視点でセラミックスと無関係の業務を担当する会社へ転職した。学位までとった科学者としてのキャリアをすべて捨てたのである。
 
 

カテゴリー : 一般

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