2016.08/28 否定証明(2)
増粘したERFへ界面活性剤を添加したサンプル瓶を注意深く観察すると静的な粘度が、それぞれ少し異なることがわかった。粘度が低いものには5点を与え、添加した界面活性剤のHLB値を基準にして分布を書いてみたら、0点が全領域で出現した。しかし、ある値のところに3から5が集中して観察された。
その値周辺で0点が現れる確率は8割だったが、増粘したERFの粘度を改善できる可能性のある界面活性剤が存在しそうな感触が、たった一晩放置する実験で得られた。ただこれは科学的な結果ではないのでこのまま報告しても、否定証明をまとめたプロジェクトメンバーに一笑に付されるだけである。
そこで、界面活性剤の特性値を多変量解析して第一主成分と第二主成分の軸で実験結果を整理したら、粘度を下げる効果のある群を独立して抽出することができた。第一主成分に最も寄与が大きいパラメーターはHLB値で80%を超えていたが、第二主成分は曇天はじめ様々な因子の寄せ集めの軸だった。ただ、それらの因子を眺めると分子構造の因子であるとこじつけることができた。
そこで、横軸にHLB値、縦軸には分子構造を数値化した軸を用いてあらためてサンプル集団の分布をまとめたところ、主成分分析で得られる分布と酷似した結果になった。このデータをプロジェクトメンバーの他の管理職に説明し界面活性剤の検討をすべきだ、と提案したところ、否定証明の報告書の存在を知らされた。
偏差値トップクラスの大学の工学博士2名も加わって一年かけた力作という説明だった。一晩で出たデータとこの報告書とどちらが信頼されるのか、と問われた。当方はHLB値だけに着目すれば否定証明となってしまう理由を説明したが、とにかくプロジェクトの仕事を指示通り手伝えとなった。
この実験から1週間後に行われたプロジェクト説明会において、プロジェクトリーダーからプロジェクトメンバーへ行われた説明は衝撃的な計画だった。抽出物が出ないゴム開発をするというゴールだった。ゴム会社だったのでゴムに詳しいメンバーがそろっていた。あたりまえだが、会議で否定的な意見が多数出された。しかしプロジェクトリーダーは界面活性剤でできないのでこの方法しかない、と説明するだけだった。
当方は参考意見として、第三成分の添加技術を提案した。界面活性剤と言えば否定されることが分かっていたので、粘度を下げる魔法の第三成分を見つけた、と説明したのだ。意外にもこれは会議に参加していた多くの人に指示された。非科学的ではあるが、増粘したERFの粘度を下げる物質が見つかっていたことが大きかった。
そこでこの会議では、ゴムの開発と第三成分の添加技術の二つを検討項目として進めることが決まり、当方は第三成分の添加を若い技術者と二人で担当することになった。開発が進み、しばらくして気がついたら全員が第三成分の技術開発に加わってきた。
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