2016.08/29 否定証明(3)
第三成分の添加剤とは、プロジェクトにいた管理職の方に教えて頂いた表現である。本質は界面活性剤であるが、界面活性剤では問題解決できないという結論が出されているので、界面活性剤という言葉では提案が採用されないと言われた(注)。
馬鹿げた話であるが、コミュニケーションの技と見なして受け入れた。科学的ということに拘っている研究所ではあったが、非科学的なコミュニケーションが重要であることを学んだ。
紆余曲折はあったが、ERFの増粘問題は界面活性剤の最適化で解決され一気に実用デバイスの開発が進んだ。当方も0.5人分というわずかなお手伝いの時間をさくだけでよくなり、住友金属工業とのJVを推進できる時間が生まれた。その後ERF用3種の粉体やERゲルなども置き土産として開発するのだが、否定証明の論文を読んでみたくなった。
その論文は英知の結集が認められる見事な内容であった。そして、ERFの増粘問題は界面活性剤で解決できない、と実験結果とともに科学的に完璧な否定証明の結論が導かれていた。
教科書を片手にこの論文を読む限りにおいては、100点の論文である。工学博士のスタッフが2名参加してまとめ上げただけのレベルを感じさせる素晴らしいの一言しかでない報告書だった。
しかし、実際には界面活性剤を用いて一晩で問題解決されたのである。否定証明を行ったメンバーのためにあえて弁解すると、これは、界面活性剤の機能はHLB値でその働きと効果を説明できる、と書いてある教科書が悪い。等しいHLB値であっても、効果の異なる界面活性剤が存在することについて触れた教科書は当時無かった。
だから、あらゆるHLB値の界面活性剤を用いて否定的な効果を実験結果で示し、界面活性剤では問題解決できないという結論を科学的に出すことができたのである。
この事例のように、科学は時として技術の可能性を否定するのに使われるので注意を要する。小保方氏が「STAP細胞ありまーす」と言っていたが、言葉ではなく一発STAP細胞を実現すればそれで生物学会もひっくり返ったのである。彼女が不幸だったのは、度胸以外の非科学的問題解決法など実務スキルを体得していなかったからだ。11月の講演会ではこの説明をいたします。
(注)ERFの増粘を防止できる最初に発見された添加剤が、親水性部分と疎水性部分で構成されたコポリマーだった。但し界面活性剤として販売されていた物質では無かった。界面活性剤として販売されているものが界面活性剤で、それ以外の添加剤を検討する技術開発、という欺瞞のテーマにさせられた。しかし、検討を進めていったら、歪んだ界面活性剤の定義中にも増粘を防ぐことが可能な物質が見つかり、科学的な否定証明の問題が露呈した。すなわち、科学的技術開発方法は、実現できる可能性のある技術を排除する問題を抱えている。カオス混合技術や高純度SiC合成技術など当方が開発した技術の多くは、非科学的方法で芽を出し、科学的方法でその結果を見直すという手法を取っている。このような手法を取ってきたのは、科学と技術の関係について真摯に考えてきたからである。
カテゴリー : 一般
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