2016.08/30 否定証明(4)
金属酸化物のゾルをミセルに用いたラッテクス合成法を1992年に開発したが、このようなゾルをミセルにする方法がコロイド系の科学雑誌に初めて登場したのは21世紀になってからである。このことを2001年に文献検索を行って初めて知った。
金属酸化物のゾルをミセルに用いてラテックスを重合する技術については、当初会社で提案した時に担当者から簡単に否定された。その時、コアシェルラテックスが正統な技術として引き合いに出されたが、これはライバル会社から多数の特許が出願されており、特許に抵触しない技術領域そのものを見つけ出すことが難しかった。
しかし、特許に抵触していても技術ができるという安心感があるというのが担当者の見解だった。すなわちできない技術にチャレンジするよりも、できる可能性のある技術で特許回避を狙ったほうが良い、という当たり前の見解である。
このような場合に担当者、特に頭の良い担当者を説得するのは難しい。ゾルをミセルに用いるという斬新なアイデアに対して、コロイド科学の視点で否定証明をするからである。アイデアが具体的であればあるほど否定しやすくなる。
このような議論では、松岡修三氏のような前向きな思考の人物を一人加えておくと良い。乱暴な表現になるが予備知識など無いまさに修三氏その人でも良いかもしれない。
ホワイトボードで図を書きながら、否定証明をさせる、そして新たな図を書き直し、また否定証明させる、その繰り返しの中で、前向きな人物ならばできそうなアイデアを閃いてくれる。科学的におかしくてもこの閃きは大切である。頭の良い担当者は、非科学的であることを理由に否定するが、前向きな担当者に、閃きを頼りに実験をやらせれば、それが成功してしまうから不思議である。
ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術は、このようなコーチングプロセスで生まれた技術である。できると思って実験をやらなければ、できる可能性のある技術でも失敗する。これは、高純度SiCを発明した時に体得した哲学である。
カテゴリー : 一般
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