2016.09/18 企画を成功させる(3)
上司だった主任研究員と研究開発本部長(取締役)と当方の3人で、無機材質研究所長を訪問した。そこで所長が大阪工業試験所(大工試)で研究していた頃の話題が出て、ゴム会社の創業者が大変な額の寄付を大工試にしたこと、そして今その恩返しができるチャンスが訪れたとお話ししてくださった。
その結果、どのような仕事でもお手伝いをする、という条件で、SiCの研究部門、I先生のもとへ定員オーバーであったけれど留学の許可をしてくださった。
翌年の4月から無機材質研究所で研究のお手伝い生活が始まった。大学と異なり授業は無いので、毎日言われた仕事をこなすだけである。最初にお手伝いを頼まれたのは、SiCの熱膨張を四軸回折計を用いて直接計測する仕事だった。
計測そのものは無機材研の主任研究官の方が行うので、当方は実験室の掃除やサンプル準備その他の雑用だった。SiCの単結晶を石英ガラス管に封入し、それをYAGレーザーで加熱し、赤外線温度計で単結晶の温度を計測、結晶の格子定数をX線回折で求めるという実験である。
ガラス管への封入が難しく、ガラスくずがたくさん出ていた。それでガラスくずからサンプルを封入しやすいように工夫した電球状の細工をして主任研究官にお見せしたところ、ガラス管への封入作業も当方の仕事になった。学生時代の有機合成実験で鍛えたガラス細工の腕が役だった。
実験が進み、1000℃以上の温度で計測する段階になった。しかしこの温度領域では接着剤が溶けて計測ができない。市販の耐熱接着剤は1200℃まで耐久する仕様になっていたが、1000℃前後で軟化することがTMAの計測で判明し、主任研究官の方は頭を抱えていた。
当方に1週間ほど時間を頂ければ2000℃まで単結晶を固定できる方法を考えます、と申し出たところ、開発して欲しい、と言われた。また、耐熱接着剤が無ければ計測実験もできないので、当方の業務も無くなった。
耐熱接着技術は3日ほどでできあがった。さっそくその接着剤で単結晶を炭素ロッドに固定し石英管に封入して試験を行ったところ、2000℃以上の計測でもそれを使用可能なことが分かった。世の中でそのような接着剤の開発が進められていた時代だったので、大変な成果だと褒めていただくとともに3日でできたことに驚かれていた。そこで、ゴム会社ではこのくらいのスピードで仕事をしなければ企画を通していただけない、と説明した。
カテゴリー : 一般
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