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2016.09/24 企画を成功させる(8)

転職した写真会社で窓際になり、研究部門から豊川にある生産部門へ単身赴任して担当した業務は、研究部門の誰もが「できもしない企画」と捉えていた仕事である。ゆえに、研究部門ではその仕事の後工程を担当していたが、重要テーマとして位置付けられていなかった。そのため、当方が成功し生産段階に移行した時にばたばたと開発を始め、結局開発納期遅れと言う結果になっている。
 
この仕事では、企画した前任者はその仕事が成功後昇進している。一方、納期通り開発に成功した当方は、横滑りで単身赴任終了東京帰任となったことがこの時の成果報酬ぐらいである。それでも転職まで選択しなければいけなかった高純度SiCのテーマに比較すれば幸せな終わり方だった。
 
この中間転写ベルトの仕事では、コンパウンド技術が重要だった。しかし、この重要な技術を外部に依存し、どのようなコンパウンドができているのかわからない状態で、前任者はひたすら押出成形をして開発を進めていた。
 
当方はコンパウンド内製化の企画を立案するのだが、高純度SiCの時と同様に組織内では歓迎されなかった。しかし、上司のセンター長がなかなか腹の座った人物で、無条件に当方を信頼してくれた。このような上司の場合には組織に歓迎されない企画でも進めやすい(当方の部下の課長は、外部から購入したコンパウンドによる開発の継承を主張(注)したため、管理下のメンバーはだれも成果を出せなかったが組織として成果がでた、という奇妙な結果でこのテーマは終了している。)。
 
センター長は、当方を信頼し中古の二軸混練機を買ってくれただけでなく、カオス混合の開発に成功した時にプラント建設に必要な投資の約束もしてくれたのだ。しかし、組織で歓迎されない仕事なので生産開始の3ケ月前までコンパウンドプラントの開発進捗を詳しく報告していない(報告できなかった、と言う表現が正しい)。そのためコンパウンドプラントは開発したのではなく、ただ必要になって立ち上げただけの小さな成果となった(プラントは発注から3ケ月ほどで立ち上がっている。誰が見ても小さな仕事だ)。
 
実際は外部のコンパウンドメーカーでも実現できなかった混練技術と、押出成形プロセスと相関する高度な品質管理技術がコンパウンドプロセスのために開発されたのだが、それらは成果として評価されていない。これら高度な技術を開発するために、報われないことが分かっていても土日を返上し働いた。
  
<ポイント>
組織の都合で正しい仕事が行われない場合がある。例えば豊洲の建物の問題も何か組織の問題があったのだろう。ワイドショーでは縦割り行政の弊害が指摘されているが、組織単位を階層の視点で見れば、豊洲移転は一つのテーマで、下部組織において複数のテーマに分かれてゆく。元石原都知事が言ったとか言わないとか議論されている建築下の空洞問題は、ワイドショーの情報を聞いている限り、下位の組織で独自の判断がなされたのだろう。単純に縦割りの弊害であれば、犯人探しは容易である。本来上位職者が知っていなければいけない金額が発生する業務において、上位職者の知らない状態がおかしいのだ。縦割りという問題ではない。下位の組織で扱えない金額の仕事を自由に担当者が推進できる状態がおかしい。これは、業者からわいろをもらい誰かがお金を着服しても監督指導できない状態である。大雑把にいえば昨日小池都知事が指摘していたガバナンスとコンプライアンスの問題となる。
高純度SiCの企画では、経営者の信頼は得られていたが研究部門は事業化したくない、というねじれた状態だった。すなわち、ガバナンスの問題である。
中間転写ベルトの企画では、一流の外部メーカーからコンパウンドを購入し開発するので必ず成功するという企画内容だった。しかしその「一流のコンパウンダー」の技術をもってしても製造できないようなスーパーコンパウンドが必要な企画だった。この事実を明らかにすれば、開発はすぐに中断となったが、すでに製品化フェーズに入っていたので、開発中断の責任は経営レベルまで及ぶ。だからスーパーコンパウンドを開発できる技術をセンター長に相談すれば、ゴーサインが出ることを当方は確信していた(判断力の無いセンター長ならば決断ができない)。センター長はこの点を理解していたので、当方のカオスな提案についてすばやく決断できた。もし無能な上司だったら、当方の退職が早まり東日本大震災で送別会が無くなる、という事態にはならず、このセンター長と一緒に盛大な送別会となっていた。しかし無事中間転写ベルトの開発に成功し、ついでにPETボトル廃材を用いた射出成型部品まで開発したので退職時期が遅れ、不幸にも大震災の日と重なった。おかげで送別会が無くなっただけでなく、帰宅難民として会社に一泊することになった。
 
(注)開発方針と開発納期を形式で判断すれば、外部のコンパウンダーからコンパウンドを購入し、仕上がったレベルの製品で我慢し生産を行う、という結論にいたる。部下の課長は、外部のコンパウンダーの技術では完成しないという当方の判断を聞き、外部のコンパウンダーに依頼するコンパウンドの検討の条件を増やす方針を出してきた。当方は、真面目な課長の計画を聞き、技術の視点で無意味なのでこの計画に反対だが科学的に否定できないので承認する、と伝え、2000万円の予算外の稟議書を起案している。ロジカルシンキングというセミナーはいつの時代でも受講者は多い。ただ、そのセミナーではロジックの間違いの可能性に技術的視点があることを教えていないのが問題だ。科学的に間違いでは無くても、技術的に実現できないロジックと言うものがあることを知らない人は多い。一方で科学的に間違っていても技術ができる場合があることを知っている人も少ない。PPSと6ナイロンを相溶させる技術は、教科書に書かれたフローリー・ハギンズの理論からは否定される。しかし、この中間転写ベルト用コンパウンドでは、これを技術として用いている。詳細は弊社へ問い合わせていただきたい。

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