2016.09/27 企画を成功させる(10)
故ドラッカーによれば、マネジメントとは”人を成して成果を出させる”ことだという。新しいリーダーが誕生すると、担当者の仕事を見直し組織構造を変えたりするのはそのためだ。ただし、組織は道具であることを忘れてはならない。組織はリーダーにとってマネジメントの道具であり、担当者にとっては自分の仕事のための道具である。
写真会社に転職して拝命した職位は、センター長付主任研究員である。二年ほどでこのセンターは改組され(リストラされ)当方は30名ほどの組織リーダーになるのだが、それまで居心地の悪い組織で仕事をしていた。センター内には管理部門以外に研究開発の実務を遂行する組織が二つあり、それぞれに組織リーダーがいたのだが機能していなかった。センター長が自ら担当者一人一人を管理していたからだ。
管理部門も同様で、そのマネジメントが当方の役目だったのだが、仕事は伝書鳩と同じであった。いろいろ気がついてセンター長に提案すると、提案は君の仕事ではない、と言われた。だから毎日が暇になったので、貢献の手段としてセンター内のテーマを手伝うことを思いついた。パーコレーション転移のシミュレーションプログラムを作成したり、インピーダンスを活用したフィルムの帯電防止評価技術を開発したりできたのは、この暇な時間のおかげである。
また、各担当者の業務のお手伝いなので、センター長へ報告する必要は無く気楽に仕事ができた。当時研究ノートが各自配られており、そこに記入し定期的にセンター長へ提出すれば良いシステムで、わざわざ報告の時間を割く必要もなく、伝書鳩の仕事で暇なことに”感謝”していた。やりたいことがやりたいようにできる身分と思うと悪くない。ものは考えようである。
ただ、センターは大赤字でその対策をセンター長にご相談しても対応していただけなかったのが残念だった。赤字の原因は明らかで、センター内の各テーマの予算は人件費程度しか無かったからだ。センター長付マネージャーとして何とかしたかったが、せいぜい各テーマのお手伝いを手足として活動できる程度だった。それぞれに個性的なテーマリーダーがいたため、計画の見直しをアドバイスしても受け入れてもらえなかった。
ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術は、そのような状況でコアシェルラテックス開発テーマの中で、コーチングにより生まれている。マネジメントの制約の中で、コーチング手法によりテーマ担当ではなかった担当者に働きかけ、写真学会から賞を頂けるような成果を出している。本手法については、11月に開催予定の問題解決の講演会で事例として説明する。
<ポイント>
専制君主的な組織リーダーの下でマネジメントを担当するのは至難の技が必要である。宮仕えの立場では、テキトーに仕事をするに限る、というのが一般的な見解で、このセンター長の下にいた室長二名はそのような状態だった。一人は生え抜きの管理職で、センター長から色々と雑務を指示されそれを忙しそうにこなしていた。もう一人の室長は当方より一年ほど前にフィルム会社から転職してきた人だった。その人は毎日机の上に新聞を広げておられた。この方からは、いろいろ動くとセンター長ににらまれるぞとアドバイスされていた。実際に肉体労働の範疇を越えるとセンター長から叱られた。ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術の開発では、一日で成果が出たのでセンター長を激怒させたが、リストラが行われセンターが改組されたので救われた。
専制君主的なリーダーのため組織運営がうまくいっていない職場でマネジメントを担当するのは、毎日ドラッカーの顔が描かれた写真を踏絵にして生活するようなものである。しかし上司に人事権がある以上は我慢して仕事をしがちである。但し、そのような仕事をした場合には、組織とともにマネージャーとしての生命も終わることを覚悟しなければいけない。あくまでも基本は、成果がだせる組織になるように働きかける仕事の仕方を工夫する努力が重要である。そのように働いても決して大きく報われるわけではないが、この仕事は使命である、という考え方が知識労働者には必要である。貢献と自己実現が働く意味である以上、組織に流される働き方は自分のためにならない。
働いて得られる報酬には、金銭以外に、組織活動の中でいかに工夫して成果を出したのか、という組織活動しなければ得られない特別な経験という宝がある。この宝は人生と言うマラソンを社会という大きな組織の中で走るエネルギーになる。サラリーマンはせいぜい40年だが今や人の寿命はその倍である。100歳以上生きる人も多くなった。年を重ねる生き方のために働く意味をよく考えてサラリーマン人生を過ごす必要がある。
カテゴリー : 一般
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