2016.10/30 ささやかな感動
カオス混合プラントが無事立ち上がり、複写機のいくつかの新製品も順調に上市され、2010年に早期退職しようと思っていたら、環境対応樹脂を開発してほしい、と言われた。
人事に2010年退職した場合と2011年に退職した場合、そして定年までいた場合と退職金等の計算をしていただいたら、どこで退職しても変わらないという。早期退職のシステムがそのようにできているからだそうだ。
そこで2011年3月11日(金)を最終日として、環境対応樹脂の開発に1年間取り組むことにした。ポリ乳酸は高いので、PETボトルのリサイクル樹脂を使ったらどうか、という提案があり、面白いと思った。提案している人は、PETという樹脂が射出成形に向いていないので、押出成形やブロー成形に使われていることを知らない。
さらにPETという樹脂は溶融粘度が低いので難燃化しにくい。すなわち複写機の外装材ではUL94-5VBという高度な難燃化レベルを達成しなければいけないので、PET含有率50%以上の樹脂ではその材料設計がかなり難しくなる。おまけにコストダウンも目標になっているので、高価な難燃剤を用いることができない。
コストの制約から1年後の開発目標として不可能なレベルだと言ったら、内装材だけでもPETボトルのリサイクル材が使えないか、と言われた。
内装材ならばUL94-V2レベルとなり、溶融型の難燃化手法が使えるので、問題は精密成型可能な樹脂設計をどのように行うのか、という問題だけである。これは、溶融時のレオロジーを調整すればよいので簡単な問題であるが、溶融型の難燃化手法と二律背反になる懸念がある。二言三言言いたかったが、とにかくできたならどこにでも使ってもらえるのか、と一言質問したら、力学物性さえ満たせば使う、と当たり前の回答が返ってきた。
こんなやり取りでスタートしたが、細かなミスにも関わらず組織がうまく機能していたので、退職前に無事樹脂は完成し、新製品に採用された。会社最後の出勤日は、最終講演とパーティーが用意されたが、東日本大震災のためすべて吹っ飛んだ。ゴム会社の退職時の送別会も退職してからの開催だったが、写真会社も結局退職してから有志だけの会が行われた。
ゴム会社と写真会社では勤続年数が異なるが、ゴム会社の方が長く勤めていたような錯覚があるのは、高純度SiCの仕事で勤務時間が長かったからかもしれない。ゴム会社と全く異なる風土の写真会社は、およそ2倍の年月勤務したが短いような印象がある。
退職後の印象も大きく異なる。写真会社を退職後、部下が環境対応樹脂の仕事が社長賞を受賞したことを知らせてきた。そしてその記念品を贈ってくれた。ありあわせの段ボール箱につめて無造作に送られてきた記念品だったが、涙が出るほど感動した。
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