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2017.01/07 一芸老人

「高齢者の定義を「75歳以上」に見直すべきだとする日本老年学会などの提言は、医学的な見地から、65~74歳は十分に社会参加ができる活力と意欲を備えた層だと前向きに評価したものだ。----同学会は、65~74歳を健康で活力がある人が多い「准高齢者」と定義し、仕事やボランティアなどの社会活動への参加を促すよう求めた。75~89歳は「高齢者」、90歳以上は「超高齢者」と位置づけた。 」

 

これは毎日新聞電子版1月5日の記事からの抜粋である。しかし、この内容は少し乱暴だ。人間が生物である限り個体差が大きいからだ。同窓会に出席して感じたことだが、50歳ぐらいから友人達の表情に大きな差が出てきた。

 

すなわち、50歳くらいから本当の老人になってしまった、かつて優秀な人たちが少なからず社会にはいるのだ。一方で当方のように左遷されてもへこたれず40代に見えるために老人として社会から優遇されない、かわいそうな老人も多数いる。

 

亡父の時代には、50歳から老人と言われ55歳定年制だった。しかし亡父は元気だったので80歳ぐらいまでボランティアで郵便局や小中学校に出かけ、ポスターなどの毛筆書きを手伝っていた。一枚書いても10円にもならない仕事だったらしいがそれでも元気に歩けるあいだは続けていた。そして最後は辞退して20年間家に引きこもっていた。

 

警察官をしていたときに交番のポスターを書いていた、というからその腕前は折り紙付きで、亡父が辞退するまで仕事が舞い込んだ理由を素直に理解できた。亡父の姿を見て、知識労働者の時代における一芸の重要さを知った。

 

当方は幸運にも50歳頃に左遷され、さらには老体にむち打つ処遇で豊川に単身赴任することになった。昔は家具屋で栄え今は寂れてしまった牛久保という田舎の安アパートの一室で、裸電球を点し自炊をしながらの一人暮らしは、そのままであれば惨めな生活となるはずだった。

 

せっかくの独身生活を活かして高分子技術に磨きをかけることにした。ゴム会社時代に出会った指導社員から謎かけのように与えられたテーマ「カオス混合」技術を実用化したり、二軸混練機を用いた混練技術を極める努力もした。その結果、混練プラントを8000万円という低価格(注)で建設できる幸運に恵まれた。

 

また、複写機用再生PET樹脂の開発を通じ、高分子の難燃化技術についても磨き上げることができ、左遷を退職後の準備の機会に活用できた。

 

日本では、大卒以上であれば35歳前後から管理職いわゆるゼネラリストの道を歩むことになる。その結果、個人のスキルは「その会社における業務のスペシャリスト」として磨く道を歩む。運良く役員までなれれば60歳を過ぎても会社に雇ってもらえるが、たいていは50歳前後から肩を叩かれる。

 

肩を叩かれたときに嘆いていては人生そこで終わる。むしろそれを機会に自己の一芸を磨くことを考えると良い。60歳くらいまでは会社は雇ってくれるはずなので早く肩たたきにあった幸運を活かすべきである。

 

当方は、前任者やそれに協力していたコンパウンドメーカーが絶対に成功できなかったと誰もが認めているPPS・6ナイロンが相容した中間転写ベルトの押出成形技術を成功させて会社に多大な貢献をした。それによって前任者はセンター長へ昇進した。

 

当方は報われることは無かったが、その問題解決のために磨き上げることができた高分子技術のスキルは、昇進以上の宝である。50過ぎの組織への貢献は、会社から報われることがないと覚悟し、純粋に自己実現努力に打ち込める機会と捉えると後悔は無い。

 

一方、ゴム会社のように風土の良い会社とは、そのように貢献した社員を正しく評価し報いる会社であるが、残念ながらそのような会社は今少なくなってきている。組織と人生の関わり方を冷静に考えなければいけない時代である。

 

サラリーマンは運が50%と言う言葉を昔聞いたが、確かにそうだ。ゴム会社では高純度SiCの事業化に成功しそれなりに処遇された。ところが写真会社ではたくさんの成果を出して業績に貢献したが、それが昇進として報われたわけではない。仕事の成功が50%の運であれば、写真会社で昇進に対して報われなかったのは仕方がないことだろう。報われなかったおかげで高分子材料技術者という一芸を得ることができた。

 

(注)コンパウンド生産のラインをご希望の方は弊社へご相談ください。先端のカオス混合技術を備えたラインを格安にて立ち上げる方法を伝授致します。

 

 

 

 

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