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2017.01/13 高分子材料(7)

高分子材料が紐状の分子の塊であるために非晶質相でも密度の違いが生じる。自由体積部分は密度が低く、そこでは温度に依存した分子運動が行われている。すなわち、目の前にある樹脂もナノオーダーの一部の領域では、ぴくぴく動いている部分が存在する生き物のような材料なのだ。

 

自由体積部分以外の非晶質部分は、凍結し分子運動ができない状態である。これをガラス状態と呼んでいる。教科書によっては自由体積部分を区別せず、それを含む非晶質部分全体を高分子ガラスとして説明しているものもある。

 

教科書に区別されていなくても非晶質部分を分子運動が凍結された構造とわずかな分子運動が行われている自由体積部分とを分けて高分子材料を眺めることは大切である。先日書いたように高分子物性がばらつくという要因以外に、熱物性を測定したときに高分子材料の過去の履歴を想像することができるからだ。

 

歴史家は遺跡の発掘により古代の人の生活を想像するが、高分子材料技術者は熱物性から高分子材料の履歴を想像できなくてはいけない。そこには歴史家が体験できるロマンは無いが、生産現場の異常を発見することができる。

 

10年ほど前に一流企業のコンパウンドを使用した複写機の外装材がボス割れという品質問題を起こした。早速コンパウンドの熱物性を測定し、製造工程の異常をその企業に連絡したところ、何も異常が無いという。

 

すぐにその会社の現場を見せてもらったら、混練プロセスの制御盤にたくさんついていた温度計の一つが異常値を示していた。現場では特に問題としてとらえておらず、温度計が壊れているから、と淡々と説明していた。熱物性の測定結果では高温度に晒された履歴が観察されたので、そこで生産されていたペレットを抜き取り観察したところ、一部に巣が入っていた。

 

以上の現場観察結果から、会社に納入されたコンパウンドをすべて開封し検査したところ各袋に巣が入っているペレットが見つかった。一流企業のコンパウンドといっても現場管理が不十分であると、このような問題が起きているので注意する必要がある。

 

そしてコンパウンドの問題というのはその責任の所在を明確にすることが難しい。問題が発生した時にはコンパウンドメーカーの良心に従う以外に解決の道は無いのだが。

 

その日本の一流某コンパウンドメーカーには誠意がなく、コンパウンドの品質問題を最後まで否定していた。但し巣が入ったコンパウンドの存在だけは、実際にそのメーカーから納入された袋から大量に出てきたので問題として認めた。

 

明らかに異常を示したペレットが存在していても「原因不明です」の繰り返しだった。もし本欄を読まれている成形メーカーが同様の体験をされたならば気をつけていただきたい。日本の一流コンパウンドメーカーの中にはこのような企業も存在するのだ。

 

いくら高品質の成形体生産を目指してもコンパウンドメーカーが不十分な品質管理をしていたなら、そのゴール達成が難しくなる。ペレットの巣の問題をきっかけにコンパウンドメーカーを当時指導していた外国の某メーカーに変更したら品質問題が解決したことも書き加えておく。それは日本のメーカーではないがQCを厳しく指導したことにより品質が向上した発展途上国のローカルメーカーだ。

カテゴリー : 高分子

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