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2017.02/05 高分子材料(24)

PPSの靭性を改良するために6ナイロンをカオス混合で相溶させた。驚くべきことに6ナイロンが7%ほど相溶したPPSフィルムのMIT値は一気に10000以上になった。30000に達した評価結果もある。困ったことに一日試験していても切れないのだ。このくらい靭性が高くなると強度にその効果が表れ、単なる非晶質PPSよりも10%以上引張強度が改善された。

 

この6ナイロンが相溶したPPSフィルムは振ってみても金属音がしない。非晶質フィルム独特の鈍い音がする。PPSだけを非晶質化した場合よりも結晶の析出が少ないからだ。ほとんど結晶化していない、といってもよいほどだ。

 

高分子の相溶という現象は非晶質相だけで観察される現象である。すなわちPPS単体で成形するよりも6ナイロンを相溶させたPPSを成形したほうが非晶質相が多くなり、成形されたフィルムの靭性が高くなるのだ。ほとんど結晶ができていないレベルなので弾性率も低くなるが、靭性が改善された効果で、引張強度はPPS単体の時よりも上がる。ただし結晶化していないので弾性率が低く一般のPPSフィルムより強度は低い。

 

この実験結果に接すると引張強度が弾性率と靭性の関数であるということを体感できる。面白いのは、このフィルムのしなやかさで、PPSがとても教科書に書かれているような剛直な高分子に思えない。むしろその一次構造は柔らかいのでは、と疑いたくなる。

 

退職直前に高分子学会賞技術賞にこの技術が推薦されたが、サンプルを見せても審査員に信じてもらえなかった。フローリーハギンズの理論で説明できない現象ゆえに理解されなかったのだ。推薦してくださった大学の先生に申しわけないと思った。また高分子の科学とは未だにその程度なのだ。この技術をアカデミアの先生方が理解できるためには高分子物理の研究にもっと力を入れなければいけない。

 

ところで高分子学会賞を逃がしただけでなく、退職後もこの技術を発展させようとサポインはじめ経済産業省の補助金事業に応募したが、3回ほど応募しても採択されなかったので諦め、中国ローカル企業を指導しつつ技術開発を進めた。その結果、カオス混合技術について普遍的と思われる長所がいくつか明らかになってきた。

 

高分子材料分野は科学で説明できない技術が生まれるという事例だが、中国で容易に受け入れられ流行しつつある。カオス混合技術が日本で関心を持ってもらえないというのは残念なことだ。

カテゴリー : 高分子

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