2017.02/22 高分子材料(39)
昨日の続き。業務を引き継いで最初に試みたのは、PPSと6ナイロン、カーボンの3成分をバンバリーで練り上げるプロセスだった。
小型のバンバリーを製造販売している会社の設備を借りて、混練時間を工夫したり投入順序を工夫したりしてプロセス検討を行った。ここではゴム会社における新入社員時代の経験が生きた。
約30年ぶりの作業だったので顔はカーボンで汚れ精神的にも疲れたが、幾つかうまくできたという実感のあるコンパウンドが得られた。
樹脂の混練など初めての経験だったが、混練しているときの感覚というものはゴムも樹脂も高分子材料という点で同じである。すなわち高分子材料は紐の塊ととらえると心眼を働かせることができる。
本当に心に描いた通りに混練が進行している、という科学的な保証はないが、与えられた時間が少ないので、自己責任で最もうまくゆく技術手段を用いて誠実真摯に最善を尽くす以外にない。
ゴム会社で事業が30年近く続いている高純度SiCの技術を起業したときもそうであったが、組織で報われない仕事と分かっていても誠実真摯に取り組んだ時には思いがけない神がかった結果が出たりする。
人生で何度もそれを経験すると、科学的に考える余裕がある、ということは恵まれた環境にある技術者の特権で、そうではない道を歩かされている技術者は腐らず誠実真摯にKKDで一発勝負を行い、新しい科学の芽を出す楽しみに人生を賭ける、という考え方になる。
博打と同じようなヤクザな仕事のやり方だが、高分子材料には、そのようなやりかたでチャンスが生まれる可能性が、科学の時代と言われていても残っている。
ただし「誠実真摯なKKD」が重要であり、これを実行できないとSTAP細胞のような騒動になる。ニュースで公開された実験ノートなどの情報をみると、頭にノーベル賞がちらついていたようで、誠実真摯な業務遂行ではなかった。
せっかくSTAP細胞の芽を出せるチャンスに遭遇したのに誠実真摯に努力しなかったので自殺者まで出るような世界中を巻き込む大騒動になったのではないかと当方は事件をとらえている。
KKDといっても科学者として未熟な技術者がヤマカンで業務を行っていては神様にも見放される。やはりKKDで業務遂行する前にその業務の科学的知識を誠実真摯に学ぶことは大切だ。
科学的知識を身に着け、科学へKKDで挑戦したときに新技術の芽を見出すことができる。
樹脂のTm未満の温度領域において剪断流動で想像していたよりも混練が進むという発見と添加順序で混練状態が大きく変わる処方系という情報などが、バンバリーの作業で得られた。
カテゴリー : 高分子
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