2017.02/24 高分子材料(41)
試行錯誤で見出したバンバリーの運転条件で混練されたコンパウンドは、PPSの海に浮かぶ6ナイロンの島とその島に偏在し分散するカーボンという高次構造の特徴があった。
そして、このコンパウンドを用いて無端ベルトを押出成形したところ周方向で抵抗のばらつきが極めて小さい半導体ベルトが得られた。ただしカーボンを抱きかかえている6ナイロン相のサイズはベルトの靭性に影響を与えるに十分な大きさだった。
中間転写ベルトの開発において問題となっていた周方向の抵抗ばらつきを無くすことに成功したが、紙のように脆い力学物性では実用化できない。ちなみにMIT値は100前後だった。
開発部隊メンバーの落胆は大きかった。このままでは開発の士気に影響するので、「今までできていなかったことがうまくいったので安心しろ、あとは6ナイロン相の島をPPSに相溶させてカーボンの凝集をソフトにすれば完成だ」とゴールの姿を示した。
しかしこれは高分子科学を無視したはったりだった。フローリー・ハギンズの理論によればPPSと6ナイロンが相溶する現象はSTAP細胞同様に非科学的な妄想に過ぎない。
非科学的な妄想かもしれないが、バンバリーを用いた実験でその非科学的現象を実現できる自信ができた。すなわち高剪断力で6ナイロンとPPSが相溶したように見えたのでロール混練あるいはカオス混合を行えば6ナイロンとPPSを相溶できると科学的根拠は無いが体験から得た自信があった。
科学的には否定される妄想になぜ自信を持つことができたのか。それは科学という哲学の限界を幾度も経験し、そしてその限界を超えて成功した体験をしていたからである。
ゴム会社で開発した高純度SiCの前駆体合成技術や電気粘性流体の増粘問題の解決、さらに写真会社では酸化スズゾルの導電性発現、ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術など科学的アプローチでは成功できなかった仕事を非科学的問題解決法で成功に導いている。
科学でその姿を100%記述できていない高分子材料分野では科学に頼らない技術開発が時には必要となる。科学とKKDのバランスをどのようにとるかは重要で、科学バカの仕事のやり方ではAIの普及が近い近未来に技術者として生き残ることはできない。
カテゴリー : 高分子
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