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2017.03/18 高分子材料(54)

樹脂材料を製品に用いるときにその耐熱性が問題になる。困ったことに用途でこの耐熱性に対する考え方が異なるので注意が必要である。まず樹脂材料の熱物性を表すパラメーターには、ガラス転移点(Tg)、結晶化温度(Tc)、溶融温度(Tm)の3種類存在する。

 

無機材料では結晶が溶ける温度と融点はほぼ一致するから製品設計でTcとTmを区別して考える必要はないが、樹脂では耐熱性を考えるときにTcを区別してとり上げなければいけない場合が存在する。すなわち樹脂の応用分野における耐熱性がTmよりも低いTcにより左右される場合である。

 

もっともTgはそれよりも低い領域に現れ、強度や熱膨張が製品の耐熱性を議論するためのパラメーターであるならば、複合材料以外ではこの温度未満で樹脂を使用するように製品設計する、と簡単にいえる(簡単にいえるが、これがいつも当てはまるわけではないことを本欄で以前紹介している。すなわち一般に行われている判断でもそれを適用してはいけない場合が存在する。詳細は弊社へ問いあわせていただきたい)。それに比較し、Tcまで問題にならないと思われる製品性能で設計する場合にTcの決め方が問題になる。樹脂の物性表に書かれたTcを安直に耐熱性の上限として採用すると市場で品質問題を起こす原因になる。

 

よく教科書に材料の耐熱性はTgやTcで左右されると書かれていたりするが、製品設計で樹脂の耐熱性を考えるときには、開発の初期段階で実際の使用環境に近い最高温度に樹脂の成形体を置きその影響を調べる姿勢が求められる。安易にTgやTcでその耐熱性を判断してはいけない。

 

例えば強度や熱膨張が製品の耐熱性に影響する場合に樹脂のTgで使用温度の上限が決まると先に述べたが、繊維強化複合材料では樹脂のTg以上でも強度材料として用いることが可能となる場合が存在する(これは「簡単にいえる」場合と逆の事例である。早い話が高分子材料で耐熱性という品質を設計するときにはいつでも現物を実際の使用環境で評価する必要がある。TgやTc,Tmだけで耐熱性を決めてはいけない)。

 

科学的に考えると耐熱性はTgやTcで議論できそうで、実際に議論できる領域も存在したとしても、製品設計では現物でその使用環境における耐熱性を調べる実験を行いその使用できる上限温度を決める必要がある。非科学的かもしれないが、品質問題を起こさないために科学で安直に判断してはいけない。

 

製品の耐熱性がTgよりもはるかに低い温度領域となる場合も存在するからである。このような科学的に想像のつかない世界が存在するのが製品設計の世界である、というのはタイヤ会社において新入社員発表会の席で学んだ忘れられない言葉である。

 

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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