2017.03/29 高分子材料(55)
高分子材料では、科学的に説明しにくい技術分野が多い。問題となるのは科学で真理として証明できていないのに、あたかもそれができたかのような説明が書かれている場合である。具体的には高分子とともに用いられる添加剤の技術分野である。
帯電防止や難燃性付与、防汚性付与、耐候性向上などには怪しい話が多い。教科書に書かれた説明には、怪しいがそれなりに信憑性があるので科学の定説と誤解されているケースも存在する。
例えば、P系化合物による高分子の難燃化機構では、オルソリン酸の触媒作用により水素原子が引き抜かれオレフィンが生成し炭化促進、チャーによる発泡断熱層でさらに炭化促進されやがて火が消える、というプロセスが書かれている。
如何にももっともらしいが、熱重量分析やその他の分析技術を駆使して数種類の高分子材料のりん系難燃剤による難燃化機構を調べたところ、オルソリン酸の気相における酸素遮断やラジカルトラップなども起きていることがわかった。
わかった、と書いたがプライベートな考察である。特に論文発表もしていないし、社内の研究報告に書こうとしたら上司の主任研究員からデータが少ない、と言われた。今から思えば社内技術の蓄積のために書くべきとは思うが、ノート程度の論文の制度が無かったので、個人的な趣味程度の実験の扱いを受けた。
一方でリン系化合物とホウ酸との組み合わせによる無機高分子生成によるリン酸ユニットの固定化、およびそれによる炭化促進、難燃化という手法は、ボロンホスフェートの生成確認やその他のデータも収集できたので学会発表まで許された。
しかし、そもそもリン酸ユニットの触媒作用さえ怪しいと思っていた当方は、学会発表しながらも何か腑に落ちない気持だった。「このようなことをしたら、このような結果となった」という現象紹介だけの場が学会にあってもいいように思うが、学会発表ではあくまで仮説による考察が求められる。
科学的根拠に怪しさのある仮説は、妄想に過ぎないが、妄想でも技術開発はできるのである。むしろ妄想による技術開発と胸を張っていえるような社会環境にしたいと思っている。新しい科学を生み出すためにはとんでもない着想で起こされた現象が必要である。
逆に新しい現象に対して、強引に旧来の科学知識で説明し、陳腐化する愚かさは技術の発展を阻害する。
カテゴリー : 高分子
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