2017.04/13 科学は普遍的真理を技術は安定な機能を生み出す
科学者は自然現象に存在する普遍的真理を導き出すのが使命である。技術者は、自然で発生するいかなる現象が生じても安定して機能する技術を創り出すのが使命である。
両者の使命は異なるので、当然その業務プロセスは異なる。科学的方法については義務教育から高等教育までの間に十二分に学べる。しかし、技術的方法については企業の現場以外では学ぶ機会が無い。
例えば商品に必要な帯電防止技術を考えてみる。特定の帯電現象について科学的に解明しても市場で帯電故障を起こさない品質の商品を設計できないことは経験者ならば理解している。
市場における帯電故障が複雑な帯電現象の各要素と複合的な作用で起きている場合が多いからだ。また、帯電という現象そのものも材料が異なればメカニズムは複雑である。
しかし帯電現象について科学的方法でそれを解明する作業は面白く楽しい。仮にそれが解明できたとしても、そこで得られた真理で商品を設計できるかどうかは、真理が市場における現象の100%をカバーしているかどうかにかかっており、これは運である。
帯電の科学について詳しい人であれば、自分の見いだした真理がとても100%カバーしているとは怖くていえないはずである。得られた真理が市場における数%の現象を説明したに過ぎない場合だってある。換言すると帯電防止技術を科学的に行えという指示は、技術開発を運に頼って行え、と言っているようなものだ。
一方技術では、商品に必要な帯電防止機能をまずシステムとして設計し、それが市場で発生する様々なノイズに対しどれだけロバストがあるのか検証するといったプロセスとなる。
これは田口先生の教科書にも書いてあることだ。この時、基本機能を考えるのは技術者の責任であり、その責任遂行のためには科学的知識以外に経験(K)と勘(K)(注)が重要となってくる。
今技術の伝承の重要性が言われているのは、このKKを伝える方法が難しいからである。市場で発生した問題をどのように解決したのかは重要な教材である。面白いのは中国人はこのあたりを良く理解しているが、日本では未だに現場的思考を軽視する人がいるのは残念である。
当方は今でも日本で学会活動を行いながら、現場の指導を中国で行っているが、KKを素直に受け入れる中国人の合理的考え方には脅威を感じている。
(注)ヤマカンではダメである。心眼で見えて仮説のようなイメージのことだ。カンにもいろいろある。
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