2017.04/26 科学的方法の問題(5)
ダッシュポットとバネを工夫して組み合わせたモデルの方程式を解くことにより防振ゴムの理想的な粘弾性のグラフを描くことができ、防振ゴムのシミュレーションが可能となる。ただしそれが可能になっても、どのような樹脂とゴムを組み合わせればよいのか、というところまではわからない。
ここで同時にシミュレーション結果に近いゴムの配合処方が見つかれば、それを解析することでどのような分子構造の組み合わせで最適な高次構造となるのか、経験(K)のある技術者ならば勘(K)でそれを予想できるようになる。
さらにシミュレーション結果と、えいや!とばかりに度胸(D)で創りだした実際のゴム処方とを考察することにより、見出された結果を一般化できる。そして一般化した内容で防振ゴムについて配合理論を組み立てることになる。
ここで注意しなければいけないのは、防振ゴム材料に関する科学が完成するためには、その理論を正しいと証明できる材料が存在していなければならない点である。この材料が存在しない場合には、自分でその材料を創り出さなければいけない。理論をサポートできる材料が存在しなければ、理論は予言もしくは単なる仮説や予測にすぎない。ここに科学的方法の限界が現れる。
指導社員はKKDでその材料を見出し、その材料のデータを基にして防振ゴムの理論をくみ上げていた。ただしKKDで材料を見出したことは周囲に秘密にしていた。
そして理論がこうなっているので、それを確認し実証する作業を新入社員にやらせる、と研究所内で説明していた。また、理論の精度を上げるために幅広く樹脂を集め検討する、とも説明していた。これは科学的プロセスの説明で研究所の風土に適合したプレゼンである。
しかし、彼の実際の狙いは、シミュレーションに適合する素材の配合とシミュレーションから外れる素材の配合にどのような違いがあるのか探ることに興味があった。
実験を行ったところ、指導社員の狙い以外の予期せぬ高分子構造の材料まで得られたので大成功だった。さらに実用化可能な配合処方が得られていたので大変評価の高い報告書が出来上がった。
ところでその報告書は、粘弾性理論で材料が設計されたような書き方になっていた。研究所の報告書は科学的に書く必要があり、だからKKDで行った実際の業務の進め方をそのまま描いたのではゴールに到達できない。
しかし、裏事情を何も知らない人が読めば粘弾性理論で防振ゴムの配合設計が可能だ、という誤解を与える報告書である。粘弾性理論は防振ゴムのあるべき特性を導いただけにすぎず、そのあるべき姿を実現する方法までは示していなかった。その解を求めるために科学的に進めたなら膨大な時間が必要となる作業であるが、KKDを使ったので短期間であるべき姿が実現された。
カテゴリー : 一般
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