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2017.05/06 科学の問題(10)

電気粘性流体の増粘問題を事例に、科学の研究プロセスで「モノ造り」をしたときの問題を指摘した。最近はものづくり論とプロセス産業論の議論が盛んに行われるようになってきたが、抽象的な議論が多い。

 

具体的な問題をとりあげづらいのだろう。しかし、裸の王様をそのままにしておくことが本当に良いことなのだろうか。またその事実を指摘するのは子供にしか許されないことなのだろうか。成長する正しい社会のあり方は、大人でも裸の状態を王様に申し上げることが可能な懐の深い「世間」だと思う。

 

科学の研究プロセスにおける問題の一つとして、仮説設定によるモデル化の過程で排除される現象の処理方法がある。これはやや婉曲な表現であるが、わかりやすく言えば、科学ではいつでも解ける問題を設定して解いているに過ぎない、ということである。

 

子供のころ読んだ科学雑誌に、「科学というものは複雑な自然界の絡み合った糸を紐解き一つの真理として明らかにすることである」という言葉が書かれていた。素直に感動したこの言葉だが、自然界から人類に役立つ機能を長年取り出してきた立場からすれば、絡み合った紐のままロバストの高い技術を創りださなければいけない苦労を科学者は理解してほしい、と言いたい。

 

高純度SiCの新合成技術を初めて学会で発表したときの屈辱感は今も忘れられない出来事だった。フェノール樹脂とエチルシリケートから合成された均一前駆体を炭化しその炭化物からSiC化の反応を行った熱分解カーブから反応速度を均一素反応として取り扱うことが可能と結論したら、前駆体の均一性が証明されていないのに、なぜそれが言えるのか、という質問が飛び出した。

 

覚悟していた質問だったので、フェノール樹脂とポリエチルシリケートを酸触媒存在下で混合すると透明な前駆体が得られ、それで均一と判断した、と答えたら、フローリーハギンズ理論をご存知か、となった。すなわちフェノール樹脂とポリエチルシリケートは均一に混ざらない組み合わせだからその結果はおかしい、と指摘されたのである。

 

透明な前駆体が得られたので均一と仮定し、まず今回の発表に至った、と当方も若かったのでまともに受けて答えてしまった。そのあとは偉い先生から発表そのものがおかしいようなコメントをされて時間切れとなった。このできごと以来高純度SiCについては招待講演以外で講演することをやめた。

 

技術発表ができないような学会では技術者の参加は増えない。ちなみにこの技術は30年近く事業として続いており、日本化学会技術賞も受賞している。(実はこの受賞についてもドラマがあり、機会があればそのドラマを公開したい。)

カテゴリー : 一般

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