2017.05/09 科学は技術開発の道具(3)
廃PETボトルを用いた環境対応樹脂は、強相関ソフトマテリアルという概念を用いて材料設計している。この概念はゴム会社の研究員も経験された元東大教授N先生方が中心に提唱されたコンセプトだ。
アカデミアの中にはこのコンセプトについて批判的な先生もいらっしゃる少し科学的というには危ないきわもの的コンセプトである。また、20年近く前に作られた説明資料の図も科学の視点からご都合主義と言ってしまえばそれまでだが、技術者から見ると大変にわかりやすい説明になっていた。
ポリマーブレンドされたコンパウンドから強相関する各成分を本当に回収できるかどうかはともかく、ポリマーブレンドの設計にそれぞれの機能性成分を添加して材料設計を行う考え方は、無機材料ではうまくできても高分子ではうまくいかないことも多いが、うまくいったときには痛快である。
PETはよく知られているように射出成形で良好な成形体を得ることが難しい高分子である。ゆえに押出成形によるフィルムや繊維あるいはブロー成形によるボトルといった応用が主でPETの射出成形体をほとんど見かけない。当方は大学の研究室以外では見たことがない。
ゆえに廃PETボトルを電子写真の精密部品に使用できるようにするためには良好な射出成形体が得られるように変性しなければいけないが、その変性方法は他のブレンドする成分と二軸混練機で混練する時に1プロセスで実現出来なければコストが高くなってポリ乳酸コンパウンドと競合する。
コスト目標は300円/kg(注)とし、強相関ソフトマテリアルのコンセプトで思考実験を行った。その結果、射出成形性以外に難燃性や靱性向上、弾性率向上などの因子と相関する成分を20wt%程度含有し80wt%が廃PETで精密な射出成形が可能なコンパウンドを実用化することができた。この詳細についてご興味のある方は問い合わせていただきたい。
(注)使用済みPETボトルはリサイクル業者へ40円/kg前後で売り渡されている。それが洗浄されて70-80円/kgとなる。バージンPETが130円/kg前後で取引されている現状を考慮しても環境樹脂というプレミアがついているので安価な材料という位置づけになる。またこの価格であれば十分にコスト目標を達成できる。ちなみに環境対応樹脂として当時定番だったポリ乳酸は450円/kgを超えていた。ゆえにリサイクルPETを主成分とした環境対応射出成型用樹脂は、環境対応樹脂というコストの視点からみると大変魅力的な技術となるが、科学的にはPETの性質を考慮すると大変難しい企画である。まともな科学的プロセスでは開発が難しい技術だが3ケ月程度で最初の試作品ができた。少し手直し後開発を開始して半年程で製品に搭載された。昔ながらの技術的プロセスでは科学を道具として用いると著しく効率があがる。PETの結晶化がどのように制御され射出成型性が出たのか、靭性がどのような機構で改善されたのかなど科学的データは何もない。しかし完成したコンパウンドは、PET以外の各成分が期待された機能を発揮してくれたので目標スペックを満たしていた。これは手品ではない。非科学的ではあるが伝承可能な技術的プロセスである。ご興味のある方は問い合わせていただきたい。
カテゴリー : 一般
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