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2017.05/12 科学は技術開発の道具(5)

カオス混合装置は、30年間「思考実験」と「現実の実験」を繰り返した結果生まれた成果である。完成品は単純なシステムだが、そこに至るまで、その機能について機会あるたびに現実に実験を行い確認している(注1)。

 

高純度SiCの前駆体であるポリエチルシリケートとフェノール樹脂の相溶した組成物や、ポリオレフィン樹脂へポリスチレンを相溶させた組成物、PPSと6ナイロンの相溶した組成物などフローリーハギンズ理論をご存知の方からはありえないことと馬鹿にされた材料を実用化し、「混ぜる技術の重要性とプロセスで起きるポリマーの相互作用」について「科学の目では確認できない機能」を「技術で利用できる現象」(注2)として体験した。

 

カオス混合についてはアカデミアで2000年頃に偏芯二重円筒モデルを使いシミュレーションが行われて、混練効率の高いシステムであることが確認されている。しかし、そのシミュレーションで用いられたモデルは実用化できないモデルだった。

 

ただ科学のプロセスで示されたその詳細な流動の様子は、設備のアイデアを練るための大きなヒントになった。まさに科学を道具として用いることができたのである。

 

科学の成果はヒントになったが、そこから実際の設備に仕上げるまでは、試行錯誤でいくつか金型を作り実験している。金型は高価なので自分で研削作業も行っている。このあたりは泥臭い肉体労働だが、金型を削りながらアイデアも鋭くなって行った。

 

(注1)絶えずアイデアを練っていたわけではない。ゴム会社や写真会社で担当した仕事の中で、チャンスがあれば知識を適用し、自然界から機能の取り出し方を探っていた。故田口玄一先生が言われていた基本機能(多くの機能の中でシステムの最も基本となる機能をこのように呼んでいる)もそうだが、そもそも技術者が自然界から新しい機能を取り出すためには、技術者が利用したい機能が作用している現象を見つけ、それを取り出して使える機能か確認し、さらに自然の中に戻してその機能が高いロバストで動作するかどうか確認しなければいけない。タグチメソッドの基本機能が難しく見えるのは、このような機能の取り出しから確認プロセスを故田口先生が示さなかったからだ。先生とは3年近く直接議論する機会があったが、基本機能をどうするかは技術者の責任と言われていただけだった。この理由で先生は科学者だった、と思っている。

(注2)発明とは、技術で利用できる現象Aをまず見つけることが大切である。そしてその現象の中から機能を取り出し、開発しようとしているシステムの中で動作を確認する。現象Aが新発見であれば基本特許を書ける。現象Aが科学で明らかであってもそこから取り出した機能を用いたシステムが新しければ発明となる。そして発明に新規性と進歩性があれば特許が書ける。新システムが基本特許になる場合もあるが、それよりも「驚くべきこと」すなわち非科学的な現象を見つけ採用したほうが強力な特許を書くことができる。新しい発明をするために発明に必要な事柄を調査から始めて行うと思っている人は多いが、技術者は創り上げるシステムを考えながら機能の動作を思考実験を繰り返し発明に仕上げたりする。さらに、日々システムに活用できる新しい機能がないか、その機能が具体化されてなくても自然現象の中から探そうとする。興味深い現象が見つかったならそれを人工のシステムに置き換えて思考実験をしたりする。この作業では科学的であるかどうかなど必要はない。システムとして動作しているかどうかが重要である。最初はブラックボックスのシステムでも過去の経験と照らし合わせながら試行錯誤を繰り返し機能を探し出すことができる。ファーガソンはこの時心眼を働かせると言っている。日本ではKKDのKKが相当する。

 

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