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2017.05/16 科学は技術開発の道具(9)

安直に科学のプロセスでモノ創りを行うと否定証明に走る危険性がある、と指摘した。ところでモノ創りには新しく開発しようとしているシステムやそこで働く機能の評価技術が重要である。

 

そして解析や分析のプロセスでは科学的厳密性を重視するのが「コツ」である。科学的に不確実な手順が入るときには、そのSN比あるいは標準偏差をしらべるのが大切なツボとなる(注1)。

 

当方は特公昭35-6616に記載された酸化スズゾル(コロイド水溶液)に含まれる酸化スズの導電性について暗電流の準位やその導電機構などを分析している。その実験を行うためにコロイド水溶液から酸化スズを取り出す必要があり、そのときに酸化スズの化学変化が懸念されたので十分な配慮をした。

 

例えばスプレードライヤーで酸化スズを粉末にするのが一番手っ取り早いが、熱がかかり、構造や性質が変化する懸念がある。この時熱の問題をどのように考察するのかが難しい。

 

一方、熱の心配が無い自然乾燥では時間がかかり、酸化スズゾルの合成条件を検討するときの評価技術としてこの方法が使えない。支持体に塗布して乾燥する方法もあるが、酸化スズ薄膜はひび割れしやすいために正しい導電性を評価できない問題がある。

 

ところで、昨日述べた否定証明が展開された報告書では、無造作にPETフィルムに塗布して薄膜をつくり、その導電性を評価して絶縁体であるという結論を出していた。薄膜の顕微鏡観察すれば、そこにクラックを見つけることができたはずだが、導電性がないという仮説、すなわち「先入観」から絶縁体という実験結果が出て満足し、クラックの確認作業を行っていない。

 

これは、クラックの確認作業を忘れた、というミスではなく、科学で裏打ちされた導電性薄膜の評価技術が無いため、研究方法として伝承された作業として導電性の測定を行った結果発生した、ととらえるべきである(注2)。

 

人類に役立つ価値を生み出す新たな機能を持ったシステムを創り出すことがモノ創りである。

 

仮に塗布技術がモノ創りの基盤技術としてあったとしても、評価技術として新たなシステムや機能の評価にそれを用いるときには、一つの真理を見いだせるような専用プロセスとして毎回作り直すかあるいは見直しをしなければいけない。

 

技術者ならばロバストを評価できる技術を、科学者ならば「真実」を導くプロセスそのもの開発しなければいけない。

 

当方は絶対にクラックが入らない、「ガラス基板を用いたディッピングプロセス」を酸化スズゾル専用のロバスト評価技術の一つ(注3)として開発している。材料評価を行うときに大切なのは、検体の調製方法である。この作成法は科学の厳しい議論で耐えられる方法でなければいけない。

 

(注1)技術者ならばSN比や標準偏差を示す程度でよいが、科学者は論理の各ステップで必ず1対1の対応となる評価技術となるまでその厳密性を追求する義務がある。未成熟な分野の場合に一部がブラックボックス化するのは避けられない。しかし、ブラックボックスの入力と出力が必ず1対1の対応関係になることを示さなければならない。生科学分野の論文を読み不安になるのはこの点である。

(注2)STAP細胞の騒動でもSTAP現象に関する科学的に厳密なプロセスの評価技術が無かった可能性が高いし、理研のメンバーが正しくその事実に向き合ったかどうか疑わしい。自殺された優秀な研究者はSTAP現象の存在を認める発言を生前していた。技術者ならば現象を見てそれを活用するときにロバストを評価する作業を行うのがQMSで定められている。科学者ならば、現象を評価して結論を出す前に、そのための厳密な評価技術を創り出す義務がある。未熟な科学者が問題にされたが、STAP細胞の正しい評価技術が今存在するのかどうかを、まず示してから、「STAP細胞は存在しない」という結論を出すのが成熟した科学者の義務である。あの時出された結論が評価技術の存在しない状態で出されたものならば事件として扱うべき大問題である。

(注3)酸化スズゾルを用いた帯電防止層の開発では、必要な既存の評価技術をすべて見直し、新たに必要な評価技術もいくつか創り出している。技術開発で科学が重要となるのはこの部分である。

 

 

カテゴリー : 一般

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