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2017.05/18 科学が無くても技術は生まれる(1)

高純度酸化スズ結晶が絶縁体であると科学的に証明されたのは、1980年代のセラミックスフィーバーのさなか無機材質研究所においてである。この成果ではじめてITOやATOと言われる不純物をドープした酸化スズ透明導電体について導電機構に関する科学が完成されたといってよい。

 

すなわち酸化スズゾルを写真フィルムの帯電防止技術用透明導電体として初めて技術として使用した特公昭35-6616が発明された時代に、酸化スズの導電性に関する科学的に信頼できる知識が存在しなかった。ただ技術としてこの頃にITOが誕生している。

 

すなわち蒸着技術で開発されたITOの情報から非晶質酸化スズの導電性をイメージし、この特許を完成しているのだ(この発明のプロセスは、ヒューマンプロセスの一つとして弊社の問題解決法でやり方を説明しています)。さらにこの時代にはまだパーコレーションについて数学の世界で議論が始まったばかりであり、微粒子分散の科学として確立された知識となっていなかった。

 

だからこの特許は科学で生み出された発明ではなく技術による発明であると、マッハ力学史を真似て時代背景の考察を行い結論できる。科学が技術を牽引していると思われていた時代でも技術が科学よりも先行して生まれた事例があるのだ。いつでも科学が技術をリードしていたなどと思いあがった考えをアカデミアは持ってはいけない(21世紀の科学を考えるときにこの点は重要である)。

 

さて面白いのは、高純度酸化スズ結晶が絶縁体であると科学で確定してからこの特許技術を見直し(1991年には多木化学から酸化スズゾルが市販されていたのでその材料の性能を評価するために否定証明の研究が遂行されている。)、酸化スズゾルが絶縁体であると科学的証明を行い結論しているところである。

 

これは否定証明として論理展開しやすい情報環境であり、否定する目的で作成されたサンプルでも報告書にそって実験を行えば誰でも再現でき、帯電防止層を見事に作ることができない。

 

ただし、できないことを実証したサンプルには細かいクラックが入っていたり、パーコレーションの制御など全く考慮されていない、など細かい問題が存在する。

 

このことは技術を生み出した当方だから、気がつくのであって昭和35年の特許の背景に存在する隠れた技術、いわゆるノウハウを知らない、どんなに優秀な科学者がこの否定証明の報告書を読んだとしてもその間違いを正すことはできないと思われる。なぜなら報告書に書かれた実験は、その手順に従い遂行されればすべて完璧に再現され、導電層などできないからである。

 

おそらくこのようなことは理研のSTAP細胞に関する報告書でも起きていた可能性がある。否定証明の怖いところは、これである。科学で完璧に証明できるのは「できない」ということだけだ、とイムレラカトシュは述べている。

 

しかし、モノ造りの観点から見ると科学のプロセスで忠実に開発を進め成功しない場合に、それを科学的に正しい結果として認めて開発を中断しても、ライバルが非科学的な技術のプロセスで成功(注)したらどうなるか?

 

この時、へたに科学的に仕事を進めると技術を生み出せないことがある、と言っては言い過ぎか?科学をよく理解したうえで技術という長い歴史のある人間の営みをもう一度見直した方がよい時代だ。(明日昨日の続きを書く。本日はその前書きに相当する内容になってしまいました。)

 

(注)酸化スズゾルの事例以外に電気粘性流体では、増粘問題を界面活性剤で解決できない、という否定証明を展開した直後に、試行錯誤で見つかった界面活性剤を用いて問題解決できている。

カテゴリー : 一般

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