2017.07/17 お化け
夏の風物詩の一つにお化けがある。未だお岩さんのようなお化けには遭遇したことはないが、信じられないお化けのような現象には多数出くわした経験があり、それに何度も助けられた。
高純度SiCの開発では、無機材質研究所で納入されたばかりの新品の電気炉を使える幸運で必ず成功させようと意気込んだ。ところが研究所の先生にすべて運転条件を設定していただき実験を開始したところ、突然電気炉が暴走し瞬間的に温度が1800℃を超えた。慌てて緊急停止を押し、担当の先生に電話をかけた。
一方でサンプルがもったいないから手動で運転できないか考えた。プログラムコントローラーを見ると1600℃保持に入っていたので慌ててスイッチを入れたところ、うまくプログラム通り動き出した。
翌日サンプルを取り出したら、真っ黄色の高純度SiC微粉ができていて驚いた。電気炉の暴走原因は不明で単なるPIDの問題ではないか、とも言われたが現象を再現できない。一番不思議なのは、その時の温度パターンが微粉を作るためには一番良かったことだ。これは今でも不思議な現象と思っている。
もう一つ、電気粘性流体の開発を手伝っていた時に、傾斜組成の粉体を偶然開発できた話。詳細は省略するが、できたらいいね、と同僚と話していたら一回目の実験でベストの粉体ができた。電子顕微鏡で組織観察しても傾斜組成になっている。なによりも驚いたのは、その粉体を用いたら応答性がよく効果の大きい電気粘性流体ができたことだ。
その後、FDが壊れたのだが、こちらはお化けではなく明らかに人為的な出来事だった。お化けであってほしかった事件である。お化けはこの世に未練があって出てくるものだと教えられたが、人間の物事に対する執着心は、まったくないよりもあったほうが面白い人生になると思っている。ただし執着心を恨みに変えていてはみじめで、執着心を前向きに転化する努力が重要である。
当方は高純度SiC技術に対する執着心ゆえに写真会社で同様の一発を狙ってきた。しかし、その一発は全員から祝福されるような仕事を狙っていたが、これが結構難しい。すなわち組織で仕事を行うときに組織が必ずしもイノベーションを望んでいるとは限らないからだ。
しかし単身赴任して担当したPPS転写ベルトでは、少なくとも豊川周辺の事業所に勤務していた全員がその成功を願っていた。外部からコンパウンドを買って開発を進めていた仕事を商流の形式を維持したまま成功させたのだが、これは組織の都合で内製化できない状況だったからだ。
この仕事では子会社の敷地を借りてコンパウンド工場を立ち上げ、子会社からコンパウンドを購入する商流を作り上げた。おそらくそれまでコンパウンドを納入してきた会社にとって突然現れたお化けのようなライバルに見えたかもしれない。基盤技術があったとしてもコンパウンド工場が立ち上がるまでは一年以上かかる。ちなみに国内の大型の二軸混練機は発注から納入まで一年程度かかる。それが半年以下で工場がたちあがったのだ。
この仕事では、初期にお岩さんより凄いお化けが出た。統合したカメラ会社の倉庫にあった小型二軸混練機でコンパウンドを製造し、押出成形を行ったところ、ぶつぶつがいっぱいできたベルトが出てきた。実はこのお化けのようなベルトが最初に出てきてくれたおかげでコンパウンドが押出成形に与える影響を学ぶことができた。運がよかった。
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