2017.07/29 アブラミの指数(3)
無機材料における結晶成長の速度論的解析は、原子やイオンの拡散など具体的にその様子を頭に描きやすい。それでも、核の発生については観察することはできない、という前提がある。すなわち核は仮想だが、確かにそこから結晶成長が起きていると考えるのだ。
慣れれば、これが自然のことだと理解できる。そしてアブラミの式以外に多数の結晶成長に関する速度式が提案されている。無機材料でアブラミの式は、数多くある速度式の一部に過ぎない。しかし高分子では結晶成長をほとんどアブラミの式で取り扱う。
そもそも高分子の結晶には階層性があり、高分子稀薄溶液から結晶成長するとできるのはラメラ晶である。また融体から生成する結晶は球晶であるが、球晶はラメラの集合体のようなものである。
融体を延伸し繊維化したときにはラメラの積層になる。一方高分子稀薄溶液を攪拌しながら結晶化させると、シシカバブと呼ばれるラメラ晶を串刺しにしたような独特な結晶が現れる。
すなわち高分子の結晶は、分子が折れ曲がり結晶化したラメラ晶が基本であるが通常目にすることが多いのは球晶である。障子の張替ではPVA系のノリを使うことが多く、張替の時に桟にPVAの大きな球晶が観察されることがある。
そして、このラメラ晶なり球晶がどのように成長するのかにより、結晶成長の機構が変化する。この時、結晶の核は高分子の折れ曲がりでできたナノオーダーの結晶の種で、この核生成速度も不均一核生成の場合と均一性核生成の場合で様々である。
高分子の結晶に関する論文でよくわからなくなるのは、アブラミの式を結晶成長のどのあたりまでのデータで処理したのかというところである。高分子の球晶には目視でもわかるぐらいの大きさになるものもあるが、速度論の解析に使えるのはせいぜい20%ぐらいまで結晶が成長したところのデータではないだろうか。
結晶成長の速度論を展開するときに、結晶成長をモニターしたときの経過時間の設定は重要で、長くとりすぎるとアブラミの係数の誤差は大きくなる。速度論の解析では反応をモニターしたときにどれだけ精度の高いデータを集めるかが重要で、SiCの結晶成長の速度論を研究したときにわざわざ2000℃まで瞬時に精度よく昇温可能な超高温熱天秤を開発した背景でもある。
カテゴリー : 高分子
pagetop