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2017.09/04 技術開発の方法(10)

樹脂補強ゴムの開発では、指導社員が用意した汎用樹脂についてすべてを基本処方のゴムに配合して評価する作業が仕事になっていた。ところが、時間がかかる粘弾性の測定は面倒な作業であり、夜間運転を行っても1日せいぜい3サンプルの測定しかできなかった。

 

計画では、ゴールの条件を満たすゴムのデータだけでなくゴールを満たさない「ごみ」となるデータもすべて計測することも考えて余裕の時間を十分にとってあった(収集されたすべてのサンプルの粘弾性データを比較し、ゴールを達成したかどうかの判定をすることになっていた)。

 

一方、樹脂補強ゴムというのは世界で初めての材料、すなわちできるかどうか不明の材料だったので、指導社員が実験目的で用意してくれた汎用樹脂だけを検討して指導社員の見出したサンプルよりも良いものができるという保証は無かった(また、指導社員のサンプルは、耐久性が不足していた。)。

 

そのため当時普及が始まっていたエラストマー成分と樹脂成分とのコポリマー(TPE)も評価対象に加える提案を当方はしている。その結果、提案が受け入れられ、業務量は増えた。

 

業務量が増えたという理由で、指導社員が高次構造の解析業務を分析グループへ依頼してくださった。この配慮で自分の担当業務は、ゴムサンプル作成と粘弾性測定、そしてゴールを達成したゴムについて品質データを揃える作業だけになった。

 

具体的な作業時間を計算できる状態になったので、QC手法による業務解析を行った。長時間かかる粘弾性測定について、全体作業との関係を考察した。

 

この時、指導社員が測定していたデータや粘弾性理論を実験目的に絞って考察したところ、サンプルの合否を特定の測定点で計測した粘弾性データを用いて判断できることに気がついた。

 

すなわち、全ての条件でサンプルの粘弾性測定をしなくても、ゴールを満たすサンプルを見つけ出せる簡単な判別法を考案した。

 

換言すれば、基本機能の最適化を含むオブジェクトの具体的アクションは、粘弾性のある特定の測定点で樹脂補強ゴムを評価し、その測定点で比較サンプルより良いものを見いだす作業となる。ただし、このアクションでゴールを達成できる配合を見出すことができるが、その他の情報はすべてカプセル化される。

 

それでも、この作業の結果は、ゴールオブジェクトのインプットとなる。このインプットデータを用いて、すなわち比較サンプルよりある特定のデータが優れたサンプルについてだけ、ゴールとして要求されている様々なデータを集めれば良い。これがゴールの振る舞いのオブジェクトである。

 

業務解析して合理化された全体の作業をおおざっぱに言えば、ゴールを満たしたサンプルだけが必ず達成している特性値を評価することで、ゴールを満たすサンプルを見つけだすことができ、そのサンプルだけ最適化と品質評価を行えばよい、ということだ。

 

(注)実際には、ゴールを2ケ月で達成したが指導社員に叱られている。ただ、特定の測定点のデータで、高次構造の予想を立てることが可能だった。そこでごみの中から報告書を書くために必要なサンプルを拾い出し、実験を行っている。その作業は1ケ月もかかっていないが、新入社員として配属された部署は配属後3ケ月でリストラされた。このリストラを予測していたわけではないが、リストラのおかげでテーマをまとめることになり大変勉強になった。さらにゴム会社に入社してゴムの混練を業務として行ったのはこの時だけであり、最後の一週間は指導社員に終日くっついていろいろと教えていただいた。今でも思い出として鮮明に記憶している密度が濃厚な3ケ月間だった。リストラで配属先が変わり、ポリウレタンの難燃化技術を担当することになるが、この樹脂補強ゴムはリストラされた部署の初めてのアウトプットとなり、後工程で処方が採用され某社のエンジンマウントに搭載された。しかし、評価されたのは後工程だけで指導社員がかわいそうだった。特許が公開されているので誰の発明であるかは明らかだったが、発明の価値など成果を基に組み立てだけを行っている人にはわからない。指導社員は神がかっているぐらい優秀な人だった。いくら優秀で、大きな成果が出たとしても、サラリーマン技術者の宿命で運が悪ければ評価されない。

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