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2017.09/06 技術開発の方法(12)

電気粘性流体の増粘問題を解決するためにせっかく住友金属工業とスタートしたばかりのJVを止めたくなかった。さらに電気粘性流体の増粘問題を界面活性剤で解決できないので、添加剤の入っていないゴムを開発するという発想は技術者の経験知から判断してばかげている、と思った。

 

本当にこの問題を解決できないのか確認するために、手当たり次第に界面活性剤を集め、それを増粘した電気粘性流体に入れて確認した。具体的には300を超えるサンプル瓶に増粘した電気粘性流体と界面活性剤を混ぜて一晩放置しただけである。翌朝サンプル瓶を眺めたところ、一つ完全に粘度が下がっているものがあった。また、いくつかヘドロ状態から粘度が改善されているものも見つかった。

 

ところで、この実験の発想は、ゴムから配合剤がしみだして増粘した電気粘性流体の問題が解決された状態を想像して得たアイデアである。さらに、このような問題が解決できるとしたら界面活性剤を用いる以外に方法が無い、と経験知から判断したのである。

 

これは、問題解決のゴールを経験知から想像し、そこで界面活性剤が機能している状態を最初に確認しようとした行動である。

 

科学の視点ではこのような仕事の進め方をしない。素性の明らかな界面活性剤を添加して電気粘性流体を製造し、それを耐久試験にかけて得られた状態を考察する、という手順になる。この方法のどこが悪いのか。結果が出るまでに時間がかかるだけでなく、仮説により界面活性剤の種類を絞り込む作業が行われ、ゴールに到達する道筋を少なくすることになる。

 

いわゆる、仮説を確認するための実験を行う、ということだ。この方法では、仮説が正しければ必ずゴールに到達し、ゴールに到達しなければ仮説が間違っている、と判断を進めるが、これは科学では、仮説が真であれば、いかなる場合にも真にならなければいけない、というルールに基づいている。

 

しかし、技術では、仮に仮説の範囲で機能しない特異点があっても、それ以外の仮説条件の下でロバストが高く機能するならば、実用化できる。科学の実験では、機能しないという結果は、仮説を否定していると見なされる。

 

すなわち仮説の範囲に真とならない現象が存在したときに科学では偽と判断するので、前向きの推論で進める科学の方法では、技術では有効な解決手段(想定したゴール)を棄却する場合がある。

 

論文を書くためであれば、ゴールが存在しないときに否定証明を論じればよいが、技術開発では機能するゴールを開発しなければいけない。否定証明に陥るのを防ぐためには、ゴールである「機能している状態」から逆向きの推論を進めたほうがよい。

 

余談になるが、iPS細胞のヤマナカファクター発見もこの当方の実験に似ており、24個の遺伝子を細胞に取り込ませる実験を行っている。そしてこの非科学的方法で結果が出るや否や、これまた非科学的なあみだくじ方式で4個の組み合わせを見出している。ノーベル賞を受賞するような仕事でも非科学的方法が用いられているのだ。

カテゴリー : 一般

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