2017.10/17 神戸製鋼の問題(3)
呆れた事例として、PPS-6ナイロンのコンパウンド工場を立ち上げたときの体験談を書く.この仕事では前任者は外部の一流コンパウンドメ-カーからこのコンパウンドを購入し、中間転写ベルトの開発を行っていた。
その時のコンパウンドメーカーに提示した仕様書には、コンパウンドペレットのサイズと形状程度しか書かれていない。中間転写ベルトの機能として重要となる強度や抵抗の品質保証値をコンパウンドメーカーに求めていなかった。
それだけではない。使い物にならないコンパウンドまで購入していたのだ。そしてその在庫については公にしていなかったので、当方が業務を引き継いだときに、その大量の在庫の責任を問われることになった。前任者の問題はこれだけではない。
コンパウンド工場の稼働間際に、外部のコンパウンダーには提示していなかった電気抵抗の品質保証値を新工場では品質保証値として採用すべき、と前任者は言い出し、工場の稼働に反対したのだ。
予算が少ないうえに工場立ち上げさえも異常な短期間な状況で、この発言にびっくりしたが、思い起こせば、内製化を提案したときから足を引っ張るような後ろ向きの発言ばかりだったので、ペレットの特性でベルトの機能を品質保証できる技術を黙って1週間で作りあげた。
そして当方が立ち上げた工場から出荷される品質保証書には、ベルトの抵抗とその偏差まで保証する電気特性値と力学的特性値(SN比)が書かれることになった。
世界初のカオス混合技術の安定したコンパウンド生産能力のおかげで、保証値をはずれるコンパウンドは皆無であり、立ち上げ後一年してこの規格を品質保証書から外した。検査を行うことでコストアップになっていたからだ。
(注)コンパウンドメーカーが、半導体ベルト用のコンパウンドについて、製品の電気特性を評価するとしたら、どのような方法を行うのか。当初は一度押出成形プロセスをコンパウンド工場に導入することを考えた。しかし、評価に最低10kg以上必要となり、さらに評価人員も2人貼り付けなければいけないうえに投資が必要なのであきらめた。そのかわり、このような材料の強相関性に着目し、電気特性とレオロジーを評価し、その両者の相関性から品質保証する手法を編み出した。中間パラメータにはタグチメソッドのSN比が採用された。かなり懲りに凝った完璧な評価技術で、そのために使用するコンパウンドはせいぜい10g程度であり、中間の抜き取り検査が可能だった。工場を立ち上げてその工程能力を評価したら大変高い値となり、一発勝負で建てた工場にしては良いモノができた、と感心した。しかも大手ゼネコンではなく、従業員が10人ほどの根津の中小企業に協力していただいた力作である。当初静岡で立ち上げたが現在は神戸に移設されたとの話を風の便りに聞いている。おそらくこの工場のドタバタ劇を知っている人はもう誰もいないだろう。一流コンパウンドメーカーに科学力ではなくもう少し技術力があれば老体に鞭を打つような苦労をする必要はなかった。
カテゴリー : 一般
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