2018.01/02 温故知新
電気自動車の時代が現実となってきて問題になるのが電池である。Li二次電池を初めて商品として世の中に出したのは、ソニーではない。ブリヂストンである。ただその電池の性能が低く、またポリマーが正極に用いられていたので、この事実は、あまり注目されていない。
Li二次電池については、全固体型電池が研究開発の中心になっているが、この全固体型電池というのは、40年以上前からコンセプトとして存在した。もっとも当時は固体電解質としてプロトン導電体が研究されていたのだが、このプロトンをLiに変更すれば、当時検討された材料の中には使えそうなものもありそうだ。
ただし、40年以上前の材料はセラミックスがほとんどであり、大半が室温では動作しない。しかし、当方の学位論文の一章には室温で動作するセラミックスではない無機高分子材料について導電性が論じられている。さらに、ゴム会社に入社後に他のタイプの固体電解質を開発している。
ところがこれらは、特許庁が公開しているデータベースで検索しても出てこない。古すぎるからだ。10年ひと昔と言われるが、30年以上前ともなると今の時代では大昔となってしまう。しかし、情報が電子データベース化されていない場合には、ケミカルアブストラクトでも調べない限り見つからない。
当方は写真会社に転職し、昭和35年に公告となった小西六工業の帯電防止特許を見つけ、特許が出願されていた時代には形式知として知られていなかったパーコレーション転移という現象の新しい評価技術とその現象を制御する技術を開発し、日本化学工業協会から賞を頂いた。
30年以上前の経験知で開発された技術を進歩した形式知で再構成しなおして全く新しい技術を生み出したわけだが、難しいのはその成果に対する周囲の評価だ。商品開発に成功したにもかかわらず社内では評価されなかった(だから学会発表などを積極的に行っている。当時の部下は日本化学会から講演賞を受賞した。)。
この経験から、温故知新により開発された技術ではプレゼンテーションが極めて重要になることを知った。ただ、これは見方を変えると温故知新によるイノベーションは、誰かが努力しない限り起きにくいことを意味する。
しかし、固体電解質については、その歴史が古く豊富な形式知や経験知が存在するので、これを放置しておくのはもったいない。もし技術開発の隘路に迷い込んだなら、古い技術をみなおすのも悪くない。電池の歴史は古いのだ。
カテゴリー : 一般
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