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2018.03/02 昨日の補足

裁量労働制の議論は、経営陣が個々の知識労働者の成果を正しく計測できるのか、というところを論点にしなければいけない。残業時間数など無関係だ。また、知識労働者には自己実現のための時間を今まで以上使う覚悟が求められている。経営陣は今以上に知識労働者の自己実現を支援しなければいけなくなるので、自然と働く時間は増えるのだ。今まで知識労働者の自己実現時間を労働として考えてこなかった問題に直面する。

 

そもそも働いた時間と仕事の成果が相関しない時代になったのである。ドラッカーは50年ほど前に知識労働者の時代として現代を捉えていた。高校生の時に亡父から「断絶の時代」を渡されて現代の働く意味を理解した。そしてタイムカードのない会社を夢見た。ゴム会社には入社したときにタイムカードが無く、裁量労働に近いという幻想を描けるような会社だった。

 

また残業時間を申請すると出世が遅くなるという噂もあった。ゆえに当方はほとんど残業時間を申請したことが無く、上司から一定量つけるように促されたぐらいである。これは、会社に泊まり込んで働いているような状態でその仕事量が職場の噂になったからだ。どれだけ働いても黙認され、貢献と自己実現を十分にできたので当方は幸せだった。高分子とセラミックスの知識は、大学ではなくゴム会社でその基礎を身に着けた。

 

現在もゴム会社で事業として続いている高純度SiC製造技術シーズは、当方の自己実現の過程、俗にいうヤミ研から生みだされたものだ。このシーズは留学した無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)で花開いたが、当方の学位論文に書かれた方法で今も高純度SiCが生産されている。ただ、この成果に対してゴム会社から十分な対価を頂いていない。労働者が裁量労働と錯覚するような状態だったが、裁量労働制ではなかったからだ。

 

ゆえに今国会で議論すべきは、知識労働者の成果に対して正しく対価が支払われていない問題である。働く意味は貢献と自己実現なので、労働者が働きすぎる問題は裁量労働制の法整備が進んだら労働者の責任となる。しかし、その成果が正しく評価され対価が支払われたかどうかは、今の国会の議論を聞く限り労使問題として残る。

 

例えば高純度SiCの技術成果(注)について学位論文や出願した特許を根拠にそれを主張したとしても、また住友金属工業とのJVを立ち上げたときにたった一人でパイロットプラントを動かし過重労働をしていた事実にしても、第三者の証明が無ければせいぜい自画自賛と笑われるだけである。対価については今も保管している給与明細書がその証拠になるかもしれないが、同期よりもわずかに多い基本給の金額がその対価と言われたら、どのように反論できるのだろうか。

 

特許に対しては、その対価を頂いたあるいは会社が支払った痕跡は無いのでこの点は主張できるかもしれない。このように成果とその対価について労使でどのようにすべきか何も法的な取り決めが無い状態では労働者が永遠に悩むことになる。

 

知識労働を時間で計測すると矛盾が生じる。このような時間と仕事の成果が相関しない業務を裁量労働とすべきで、時間と仕事の成果が相関する仕事を裁量労働としない法律を定めることや、成果に対する対価の支払いをどのように行ったらよいか、国の指針をだすことである。

 

これは成果給で説明すると、GDPや会社の利益から最低基本単価を決めることが可能と思われる。また、一つの仕事に携わった年限に応じ最低年功賃金を決めれば派遣社員も昇給の可能性が生まれる。習熟度の測定を単純に年数で計測することの問題はあるが、多くの学習曲線が時間をパラメーターにしていることから大きな誤差は生まれないと思われる。知識労働者が生み出す成果について法的な整備が必要である。

 

(注)あくまでも技術発明の成果とJV立ち上げの成果である。経営陣の熱意と努力や、当方の転職後ゴム会社で業務を受け継いだ人々の事業貢献についてその成果が誰のものかは説明するまでも無い。ただし、転職後も支援のためのお手伝いや事業が立ち上がるまでの二年弱、たった一人でこの業務と他のテーマを担当し、パイロットプラント以外の実験室に置かれた研究設備を当方の許可なく廃棄されたり、その他の妨害と思われる出来事に耐えながら使命を全うした暗い思い出を今改めて検証するときに知識労働が知の戦いになる特性と裁量労働から生じる問題とが重なるのだ。他の企業でも当方のような苦労を体験している技術者がいるのではないかと懸念しているが、これは過重労働とは異なるカテゴリーの問題である。知識労働の現場は、労働時間云々以外の有象無象の問題が多い新しい形の労働問題の巣窟であり、失われた20年間と長期渡り企業の業績が上がらなかった遠因ととらえている。昨今パワハラやセクハラ、モラハラなどが突然噴出したように思われているが、これらはバブル景気の陰に隠れていたものが20年間にリベールされた結果である。裁量労働については、知識労働の特性をよく解析し正しく法整備をすべきである。丁寧に知識労働の現場の問題についての議論に時間をかけるべきである。

カテゴリー : 一般

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