2018.03/05 カオス混合装置の発明(3)
樹脂補強ゴムの開発は、一年間の計画が立てられていた新入社員テーマだった。一方で、大衆車のエンジンマウント用に高性能かつコストダウン(CD)配合の防振ゴム開発が緊急課題として生産現場から研究所に求められていた。
この緊急性について同期が製造技術部門に配属されていたので知ることができた。生産現場からすぐに欲しいとの要望が出されていたが、研究所では基盤技術研究テーマとして樹脂補強ゴムを位置づけていたため、当方以外の戦力はあてられていなかった。
また、このテーマは、ニーズとは無関係で指導社員のアイデアとして企画され、半年間指導社員が一人で推進してきた。ゆえに一応当方がニーズに合わせた補強要員という役割だった。
ドラッカーの働く意味は、貢献と自己実現であり、当方が担当していた樹脂補強ゴムの成果でニーズに合わせてすぐにアウトプットを出すことは十分な社業への貢献に思われた。また、カオス混合装置について研究することは混練技術に興味を持ち始めた段階では、ゴム技術者を目指す自己実現手段として意味があった。
さらに新入社員である一年間は残業代が支給されない規則だったので、残業を死ぬほどやっても会社に迷惑をかけるわけではなかった。健康には自信があったので、仮に死ぬほど残業をしても死なないだろうと楽観的に考えたため、寝ている以外は仕事という毎日になった。
今の国会で議論されている働き方改革とは程遠い考え方ではあったが、働いていると何故か不思議な幸福感があった。指導社員から、計画が遅れない限り好きなように仕事を進めてよい、とあたかも裁量労働のように言われていたからである。
ただし、計画に遅れない、とは、新入社員発表会において発表できる程度の成果が出ておればよい、という意味だった。ありがたいことに指導社員は残業を全くしない定時退社の習慣だった。
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