2018.03/22 高分子の難燃化におけるリンの効果
過去に高分子の難燃化についてこの欄で書いているが、リンについてその効果を今日は書いてみる。リン系難燃剤については大八化学が有名で1980年ころ縮合リン酸エステル系難燃剤を多数開発している。ポリウレタンの難燃化を2年間担当していた時に多くのサンプルを頂いた。
このリン酸エステル系難燃剤の大半は燃焼時に熱分解し揮発する。その分解挙動は様々だが、600℃まで熱処理を行ったときにほとんど残らない。それでもポリウレタンはじめ多くの高分子を難燃化できているので、300℃前後で炭化物生成反応が開始していそうなことが推定でき、たいていの教科書には、その触媒作用の機構が書かれている。
面白いのは、ホウ酸や水酸化アルミニウムなどを組み合わせてやるとホウ素やアルミがオルソリン酸と反応し、600℃に加熱しても難燃剤由来のリン酸が残っている。また、ホウ酸や水酸化アルミニウムの併用でリン酸エステル系難燃剤添加量も半分程度に減らすことが可能である。
ただこれには多少ノウハウが必要で、高分子材料を扱うスキルが低い場合には再現しないようだ。このような少し怪しい技術だが40年近く前にいろいろと実験を行い、科学的に正しそうな知見を得た。
まず、多くのリン酸エステル系難燃剤は、280℃前後で熱分解し、オルソリン酸を発生する。オルソリン酸はこのあたりが沸点なので600℃で難燃剤由来のリン酸のユニットが存在しない理由を説明できる。また、ホウ酸や水酸化アルミニウムが均一に分散しておればオルソリン酸と反応し、これを系内に保持することが可能である。
ボロンホスフェートは耐熱性が高いので600℃までリン酸ユニットを保持していることも説明可能である。面白いのは、ボロンホスフェートの構造でポリウレタンに添加しても難燃効果は低いが、ホウ酸と縮合リン酸エステルの組み合わせでは難燃効果が高くなることである。
これは、300℃前後でオルソリン酸の構造をとっていないと炭化促進の触媒効果を示さないのでは、ということを想像させる。オルソリン酸が炭化促進効果で触媒作用を示すことは知られており、この想像は間違ってはいないだろう。この想像を膨らませると未知の難燃剤システムを設計可能で、高分子の難燃化技術は奥が深いと改めて感じる。
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