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2018.04/01 組織のために妥協は悪くない

貴乃花親方は妥協するタイミングを失っていた。あのような場合は、誰かがうまくコーチングにより妥協すべき方向と方法を示すべきだった。FD事件が起きたときの上司のアドバイスは「組織から出ていけ」だった(注)。すなわち、事業として立ち上がったので当方は不要である、というのだ。

 

一方その事件が起きる二年前に研究開発本部長だったU取締役からは、学位取得を勧められていた。SiCの速度論についてまとめ終わり学位としての体裁を整える自己実現努力の途中に事件は起きた。仮に貢献の役割は終わったとしても、自己実現のために問題を隠蔽化し妥協する考え方もサラリーマンとして残っていた。

 

そのようなアドバイスを当方にしてくださった方もいた。しかし、目の前に起きていた問題は過去に形を変えて繰り返されていた組織の問題だった。

 

妥協して異動すなわち組織を出ていく選択を考えていた時に、まったく専門分野が異なるので、それまでのキャリアを捨てることになるが、ヘッドハンティングのコンサルティング会社より写真会社を紹介された。

 

人事部に同期の担当者がいたことも決心の方向を決めることになった。転職の決意をして、彼にそれまでの組織で起きた事柄を一部始終話した。

 

それから20年以上たち、起業後この研究開発本部からお誘いを受け講演をする機会に恵まれたが、その時感じた雰囲気は、タイヤ開発部門で研修したときの印象に近かった。20年間に職場の風土が変わっていたのだ。

 

研究所長にはゴム会社の同期がその職に就いており、彼はタイヤ材料開発部門の出身で、問題のあった組織、すなわち研究開発本部の生え抜きではなかった。自己変革できる企業は持続的な成長が可能である。

 

今、社内で不祥事が発生すると些細なことでも社長が謝罪会見を開くようになった。その結果、社内では再発防止策を余儀なくされる。これは、ある意味、問題のある組織にとっては良いことである。

 

不祥事が起きない組織が理想だが、組織で活動しているのが人間である限り、過ちは避けられない。過ちを隠蔽することなく過ちとして認め、対策をすぐにとれるかどうかは誠実なリーダーが組織にいるかどうかに依存する。

 

ネット社会となり、不誠実なリーダーは内部告発に晒されるリスクが高くなった。しかし、不祥事があれば匿名で何でもかんでも内部告発する、という昨今の風潮は、健全な妥協の感覚を鈍らせ、貴乃花親方のような社員を生み出す懸念がある。もう少しこのあたりの知恵を社会で考えたほうが良いように思う。

 

(注)高分子学会賞を受賞したプラスチックロッドレンズの技術開発では、事業として日の目を見たときに開発の創始者が研究部門を異動していたという。受賞対象の筆頭となった三菱レーヨンU氏は、その人も受賞者の一人として加えたと高分子同友会で説明されていた。企業風土の品格の高さを示す逸話である。

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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