2018.06/21 知識(8)
中間転写ベルトの押出成形工程で発生する騒音が、清掃作業で金属音から鈍い音に変化する現象を誰もが情報として知っていた。その現象に疑問を持ち解決策の機能をみつけることができなかったのは、目の前の現象が発している情報を知識と結び付け、新たな知識に変える作業をしていなかったためである。
カンが働く人と働かない人との差はこのようなものである。目の前の現象の変化に疑問を持ち、現象の情報を知識に変えるためには、現象の変化を自らの言葉で説明する作業が有効である。その時不明点が出てきたならば、書籍に載っている形式知でその不明点を解決してゆく。
すると、形式知で説明できないところが見つかるかもしれない。形式知には限界があるからそこは経験知で理解できないか考える。経験知には暗黙知もぶら下がっているから、運が良ければ暗黙知を現象と結びつけて具体化できるかもしれない。
この一連の作業で、ある不思議な現象を前にしたときにそこから得られる情報と身についている知が現象と結び付けられてゆく。すなわち、形式知と経験知、そして暗黙知が整理された状態で目の前の現象といつでもうまく対峙できる状態に自ら努力しなければいけない。
自然現象から得られる情報を知識に効率よく変えるために、まず身に着けている知識をいつも整理された状態にしておかなければいけない。そのとき、形式知や経験知は容易に具体化でき整理できるが、暗黙知は厄介である。
当方が実践している方法は、暗黙知を経験知にぶら下げておく努力である。経験知の枝に何かわけのわからない袋がぶら下がっているようなイメージを忘れない努力である。
経験知の中には、何か腑に落ちないが、何となくこうなる、だから覚えておこう、と感じるような知識がある。この腑に落ちない、しっくりこない感覚を忘れないことである。
身に着けていた経験知でたまたまうまくゆき、それで満足している人を時々見かけるが、しっくりこない経験知で運よくうまくいっても満足してはいけない。なぜうまくいったのかそこで考えると暗黙知が新たな経験知に変化する。
この暗黙知が新たな経験知に変わる瞬間は、まさに一を聞いて十を知る、という感覚である。言葉では言い表せないすっきり感がある。PPS/6ナイロンの相溶に成功した時、経験知から狙い通りの結果ではあったが、やはり満足のゆかないところがあったので、さらにいろいろと実験を行ってみた。
すると満足のゆかないところが具体化され、新たな技術アイデアが生み出された。3年前中国のローカル企業を指導していた時にそれを実行する機会があり無事成功し、頭の中がすっきりした。
何を発明してすっきりしたかは問い合わせてほしい。高分子のプロセシングと材料設計にかかわる発明で、これはコンサルティングのお客である某社から特許が出願された。
ちなみに、カオス混合装置はゴム会社の新入社員実習で指導社員から彼のすっきりしない経験知を伝承していただき、頭の隅で悶々となっていた暗黙知の寄与が大きい。30年弱の時間をかけた発明である。
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