2018.07/13 高分子材料の滑り性
銀塩フィルムが写真材料として使われていた時代に、写真フィルムの滑り性は重要な品質項目だった。その滑り性付与には、滑剤による方法とマット材による方法とがあり、さらに帯電防止性能も滑り性に関係した。
アカデミアで表面界面の研究は今でも活発に議論されている分野だが、写真フィルムの滑り性付与に必要な機能といえば、滑剤とマット材、それに帯電防止性能だった。
滑りすぎてもフィルムが扱いにくくなるのでその程よいさじ加減でフィルムを設計する行為が滑り性設計技術である。すなわち学会でどのような活発な議論がなされようが無関係に、職人技に近い技術開発で滑り性は設計されてきた。
このとき滑剤のブリードアウトも品質問題を引き起こすので設計に際し、最初にテストする項目となっていた。開発初期に合格していても、商品テストで粉を吹いたようになることもあった。
ブリードアウトは開発者泣かせの品質問題だが、コツをつかめば恐れるに足らずの問題でもある。しかし現場で困っていてもアカデミアでは、このような問題を取り上げてくれない。せいぜい拡散係数程度の研究である。
写真フィルムの新製品ごとに毎度設計しなおさなければならない面倒な技術だが、おやじギャグで滑らないようにするのと、フィルムの滑り性を制御するのでは、後者の方がやさしい、という程度の技術である。
やさしい技術ではあるが、品質設計となると市場での問題が絡んでくるので担当者にとっては頭の痛い問題となる。転職したばかりのころ、ある担当者に連れられて印刷工場の現場に案内された。
そこで2枚に1回現像されたフィルムがうまく滑らず途中で金属の壁にくっついている光景を見せられた。おもわず吹き出して面白い現象だ、といったら担当者に叱られた。しかし調べてみたら本当に笑えるような面白い現象だった。
科学時代ゆえに科学的に解明された考え方で表面の設計をすると問題解決できないパラドックスというよりも「科学時代」ゆえのとんでもない現象だった。まさに科学とは自然現象をある一つの視点で眺めているに過ぎない哲学であることを気づかせてくれた問題だった。
技術者は恋愛真っ只中の若者のようなモノの見方で自然現象を眺めてはいけない。科学者にはそれが許されても技術者は常にストイックに自然現象を多方面から、それも科学者が思いもつかないような視点で眺める努力が必要である。真理がどうであれ、まず観察し機能を感じるモノの見方が求められる。
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