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2018.07/25 高分子の劣化・寿命(1)

昨年暮れに材料メーカーの品質管理データねつ造があいつぎ、社長の謝罪会見が行われた。興味深かったのはトヨタ自動車はじめ川下のお客はすぐに製品品質について異常なし宣言をだしたことだ。これにより川上メーカーの火の粉をよけたわけだが、違和感を感じた方が多かったのではないか。

 

品質管理基準を満たさない商品を使った製品が安全であると宣言しているのだ。ニュースでは「特採」の存在まで丁寧に説明し、川上メーカーが不良品を川下メーカーに納めたにもかかわらず、川下で問題が起きないからくりを「わざわざ」説明していた。材料メーカーの当時の不祥事が大きな社会問題にならないような配慮だが、品質管理の考え方から見れば、実はこの説明にだれかかみついてもいい。

 

社会不安をあおることにもなりかねないのでこれ以上はニュースの説明に言及しない。ただし、この事件の流れについては「さすがトヨタ自動車」という正しいコメントが、建設的であり、また「組み立てメーカー」と「材料メーカー」の関係の問題及びこの関係において「材料メーカー技術者」の涙ぐましい努力と彼たちの築いてきた材料技術の裏側を浮き彫りにするので少し書いてみたい。

 

ニュースでは特採の実態について詳しく説明していない。これは説明しにくい話だからである。ニュースでは短時間の説明で素人が納得できるような内容だったので、おそらく品質管理業務に精通したどなたかがニュース原稿を作られたのだろう。

 

ニュースでは語られなかった重要な本音を述べると、組み立てメーカーの材料に関する品質管理手法や材料の品質が関わる部品の設計手法は外部に知られたくない重要なノウハウであり、これは科学の不完全性を示す事例である。換言すれば、これだけ科学が進歩したと言われているにもかかわらず、科学で完璧に説明できない現象が多いから、川上メーカーが知ろうとしても知ることができない川下メーカーのノウハウが生まれるのだ。

 

もし、材料物性と製品品質の関係を説明できる完璧な形式知が存在したならば、トヨタ自動車の宣言は大嘘かあるいは不誠実な発言ととなる。しかし材料品質と製品品質の関係を既存の形式知を用いて未だに完璧に説明できないので、川下メーカーは品質保証された材料が納入されても独自の品質基準でその材料で作られた部品の品質管理を行わなければいけないという実態がそこにある。

 

このような「完璧な形式知が存在しない」ことを誰もが暗黙の裡に知っており、トヨタ自動車の品質管理技術が世界一とよべるような信頼性が確立されているのでトヨタ自動車の鶴の一声で年末のねつ造問題は沈静化したのだ。

 

製品を開発する過程で「完璧な形式知が存在しない」ため川上メーカーと川下メーカーはお互いの技術内容を開示しながら「すり合わせ」で技術を創り上げてゆく。この時川上メーカーには正直に材料物性データを提出することが求められるが、川下メーカーからはその物性データがどのように製品品質と関わっているのかについてノウハウであることを理由に詳細な説明がなされない。せいぜい物性データについて〇×△の記号がつけられた一覧表が渡されるだけだ。

 

材料メーカーの優秀な技術者は、お客様である川下メーカーの〇×△データを唯一の手掛かりとして材料の品質管理基準を創り上げてゆく。その過程は、形式知を使い論理的に進めることができないという理由で科学の研究よりも難しい作業となる。材料が製品で機能を発揮している状態を心眼で見る必要があるからだ。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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