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2018.08/07 エチルシリケートとフェノール樹脂

高純度SiCの発明では、その事業シナリオを述べた会社創立50周年記念論文が佳作にも選ばれなかったり、「あなたがやりたい新事業は何ですか」という問題に解答として書いた昇進試験に落ちたり、住友金属工業とのJVを推進していてデータFDを壊されたりと散々な目にあっているが、この事業は今でもゴム会社で続いている。

 

事業企画からその心臓となる技術開発、さらには事業立ち上げまで行った人物が全く報われていない、というのは日本の技術開発シーンでは珍しくないそうだ。しかし、そのように慰められると将来の日本に不安を感じてしまう。

 

技術立国日本と言われた裏側の実態はお粗末だったから失われた20年や品質データ改ざんなどのお粗末な事件も起きてしまうと説明されても、寂しくなる。やはり、健全な社会であることを信じ明るい未来を描く努力をしなければいけない。

 

高純度SiC合成実験で還元炉の暴走があったのは、幸運だった。未だに原因はわかっていないが、暴走の時の温度パターンが最適条件だった、ということがその後の研究でわかり、さらにびっくりした。誠実真摯に努力しなければいけない理由がここにあると実感した。

 

神や仏の存在をあまり信じていないが、人生においてひどい目にあったとしても、それに相当する神がかり的な幸運も訪ずれることを信じるようになった。その結果不幸という事態に陥っても次の幸福を信じ努力できる考え方を身に着けた。

 

もっとも子供の頃からどちらかと言えば楽観主義で、親からはもう少し慎重な人生を諭されたが、半分青いサラリーマン人生だった。ただしフェノール樹脂とエチルシリケートのリアクティブブレンドの発明に関しては、この親の教えが生きた。

 

リアクティブブレンドについては、ポリウレタンの合成技術として学び工場試作なども経験し技術の特徴を熟知していた。しかし、50周年記念論文で落ちたことやその他の状況からフェノール樹脂とエチルシリケートの反応に関する研究を急いで進めるのではなくヤミ研で機会をうかがいながら進める選択をしている。

 

ところが昇進試験に落ちたことで無機材研の先生の心を動かし、この研究が表に出ることになったが、ひとたび社会や組織で受け入れられた後の展開は加速度的だった。

 

SiC化の反応速度論的解析も2000℃まで昇温可能な熱重量天秤が無いとわかると、2000万円を投資してすぐに開発し、それで実験を行っている。(この時のデータをアカデミアの先生に勝手に論文にされたのはその5年後である。)

 

多くの研究者から発明として優れていると褒められてもフェノール樹脂とエチルシリケートの合成反応に関しては、シクラメンの香りの合成に成功したときほどの大きな感動は無かった。あまりにも長期にわたり気を使いながら研究を進めたからである。

 

フェノール樹脂とポリエチルシリケートのコポリマーを高純度SiC前駆体に用いる夢をあきらめかけたこともあったが、シクラメンの香りを思い出しながら根気よくそのチャンスがおとづれるのを待った。

 

研究者として駆け出しのころの初めての成功体験は重要で、このような研究の喜びを学生に指導できる先生という職業は神にも匹敵する、と思っている。

 

「世界の研究者と競争している自覚を持て。今着想したアイデアを他の人も気がついたかもしれない。すぐに実験だ。」これはその指導をされた伊藤先生の言葉である。

カテゴリー : 高分子

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