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2018.10/05 高分子の混練(2)

高分子の混練をなぜ行うのか真剣に考えてみた。混合目的でなくても一組成の高分子を混練しても意味があるのか、とまず考えて、光学用ポリオレフィン樹脂だけを混練してみた。

 

写真会社で、倉庫だった場所を改造した部屋が居室になった時である。丁寧に両袖机が窓際に置かれた。何をやっていてもよいと言われたので、ゴム会社の新入社員時代に学んだ混練の技術についてまとめてみようと思った。

 

フィルム技術は、写真会社に技術者や職人が余っている状態なので誰かがまとめるだろう。しかし、混練技術は、基盤技術も無ければ知っている人は当方しかいない。

 

ゴム会社ではセラミックスを担当していたので高分子材料技術の担当となる会社を転職先として選んだ。そのような気配りのためゴム会社の元役員にご相談したら、20年以上前の技術なので転職先で扱っても問題にならない、と言われた。確かに20年とは二昔であり、ゴム会社の混練技術も相当進んでいるはずだ。

 

そのときカモがネギしょって部屋に訪ねてきた、と言っては失礼になるかもしれないが、まさにそのようなタイミングよく相談の内容も至れり尽くせりの訪問だった。詳細な内容は少し差し支えるので省略するが、光学用樹脂の改良を相談されたのである。

 

写真会社には混練装置が無いので、試験用混練装置でよいから一式そろえてくれたらテーマを担当してもよい、と答えたら鍋から調味料まで一式用意してくれた。

 

この試験用混練装置で光学用樹脂だけを混錬したら驚くべき結果となった。これは当時学会でも発表しているのでここに書くが、部分自由体積の量が混練時間とともに減少するのだ。

 

そしてもっと驚かなければいけないのは、それが減少し安定化するのに30分程度かかるのである。一般のL/Dが40や50程度の二軸混練機では材料を投入してから出てくるまで3-5分程度である。

 

バンバリーでゴムを練る時なんかは3分程度である。すなわち部分自由体積の量が安定化するまで一般の混練プロセスでは、高分子を混練していないことになる。指導社員がロール混練を重視していた意味をよく理解できた。

 

この実験結果が頭にあったので、中間転写ベルトを開発していた時に、ペレットの一粒一粒の密度ばらつきを計測してみたら、大きくばらついていた。

 

この結果にはカーボンの添加量のばらつきも含まれているので、熱重量分析でカーボン量のばらつきを求めてみたらそれよりも大きくばらついていたのだ。

 

50歳前後のサラリーマンが窓際の席になり、時間を持て余す話はよくあるが、その後、この時ボーっと考えてみようと思っていた問題で忙しくなった。そして退職までの仕事は、それを特に希望していたわけではないが、混練が中心の仕事になっていった。

 

しかも、考える時間など無くなり、樹脂補強ゴムを開発していた時の様な本能的な仕事の進め方で肉体作業の連続のまま退職を迎えた。退職後は中国ナノポリスで窓際で考えたシナリオに基づき研究を進めた。中国で研究しなければいけなかったのは、日本で政府の補助金事業に応募しても何度も落ちたからである。

 

当方は重要だと思っているが混練など日本では必要のない技術と思われているのだろう。自信は無いが、この退職後6年間得られた成果から見ると、このような見識は間違っているのかもしれない。

 

しかし、自信のないことを積極的に提案するつもりは、もうないのでせめてセミナーや講演会だけでも活用して日本に貢献しようと努力している。来年には混練技術に関する書籍を出版する。

 

何も考えず肉体労働で仕事をやっていて少しある種の恐怖感を覚えたのは、新入社員時代の指導社員との会話で出てきたカオス混合を指導社員の期待通りに試行錯誤で実現できたことである。

 

30年前に現在の自分の姿を予測していたかのような感覚になると同時に、30年前の何もわからず指導社員に言われたまま活動していた時の記憶が鮮明に甦ったかのようだった。

 

また、当方がゴム会社でたった3ケ月しか担当しなかった混練技術について、もし、まとめようとしなかったなら、中間転写ベルトや環境対応樹脂など迅速に市場へ出せなかったかもしれないので、今から思い出しても不思議な体験である。

 

また、単身赴任中はよく徹夜をして過重労働を自らかして仕事をしていたので、正真正銘夢の中で仕事をしていたような気分である。

 

人生とは常に前向きに、そして腐ることなくチャレンジしてゆく姿勢が大切だと思った。また、どうしたら良いかわからなくなったなら、過去の成功体験を思い出してみるとよいかもしれない。すなわち温故知新である。

 

何か役に立つヒントをそこで見つけるはずで、若いときの厭世的な白日夢と異なり年寄りのそれは生きるための活力を求めるという意味で建設的である。

カテゴリー : 高分子

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