2018.10/12 ざるそばと高分子
昨日は移動時間の都合で昼食として池袋でざるそばを食べたのだが、その店のそばが絡まりすぎていて、一箸の塊が大きくなり、つるつるとリズミカルに食べることができなかった。
この蕎麦屋で、出張の際に昼食を時折食べているが、一箸の塊サイズが安定していない現象について以前より気になっていた。昨日電車の時間に余裕があり特に急いでいたわけではないが、それでもつまんだ時の大きな塊に少し焦った。
この現象は、蕎麦が乱雑に絡まっているためとわかっていたので、時間に余裕があるのを幸いに蕎麦一本を箸でつまんで遊んでみた。すると大きな塊が摘まみ上がってくることを期待したにも拘らず、きれいに一本だけするすると引っ張り上げることができたので感動した。
どこに感動したのかというと、摘まみ上げた一本の蕎麦のレプテーション的運動を観察できたからだ。高分子のレオロジーにおける現象モデルとして、土井先生が提案されたレプテーションモデルが有名だが、これは高分子が分子鎖方向に運動するモデルのことで、クリープをうまく説明できる。
試しに、うまく抜けそうなものを探し、もう一本摘まみ上げてみたところ同じようにレプテーション的運動でほどけて抜けてきた。三本ほど丁寧に繰り返したところ、蕎麦がうまくざるの上に広がった。複雑に絡み合っているかのように見えたのだが、そうではなかった。
このように複数摘まみ上げて引き抜いたところ、大きな塊とならず、うまくつるつると口の中に入ってくるようにざる蕎麦が変性された。これだけでも蕎麦の味が変わるから面白い。まるで高分子が混練プロセスで変性される様子を味で確認しているようなものだ。
混練による高分子の変性はともかくとして、たった2-3本の絡み合いが複雑になっているだけで大きな塊になる現象から、樹脂のMFR測定におけるばらつきや樹脂のレオロジーの温度分散測定、ゴムが配合が同じにも拘らずロール混練条件で異なる物性を示す現象などについて思いをめぐらした。
20年以上昔の教科書では高分子の絡み合いについてほとんど触れていない。昔ゴムの架橋モデルについて古川先生が展開されたケモレオロジーは、ご都合主義だ、と指導社員が厳しい批判をされていたが、それは土井先生のレプテーションモデルが提案される前だったので妥当な批判だった。
すなわち、ゴムの架橋はゴム分子の絡み合い構造があって、その絡み合い構造で架橋反応が進行しているモデルを考えなければいけないのだが古川先生のモデルでは絡み合い構造を無視していた。
ゴム会社のある部長が部下に命じて古川先生のモデルについて妥当性のあることを証明するための実験をしていた時代でもある。指導社員は、これを批判したわけだが、この点について機会があったら詳細をここで書きたい。
蕎麦を食べていたら40年ほど昔の記憶がよみがえった。よく噛んで食べることは認知症の予防になる、と以前TVのある番組で言っていたが、このことだろう。この腰のある絡み合った蕎麦を食べなければ思い出さないような記憶を思い出したのである。認知症予防のためには確かに食事を大切にしなければいけない。
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