2018.11/01 高分子の熱分析(3)
DSC(示差走査熱量計)にしてもTGA(熱重量分析)にしても、熱分析では測定時の昇温速度をどれだけにすればよいのかが問題になる。すなわち昇温速度が異なると変曲点の現れる位置、すなわち現象の変化している状態を示す温度が変わるためである。
学位論文でSiCの生成反応速度を研究したときには、2000℃まで1分で昇温可能な超高温TGAをYAGレーザーと赤外線イメージ炉を組み合わせて開発した。そして、1℃/min、2℃/min、4℃/min、8℃/minの昇温速度で測定された重量減少カーブから世界で初めてシリカ還元法における反応機構を明らかにした。
これはエチルシリケートとフェノール樹脂から製造された前駆体を炭化して分子状態で均一なシリカとカーボンの混合物を開発できたこととこの超高温TGAが完成して初めて達成できた研究成果である。
シリカとカーボンが分子レベルで均一になっている炭化物を用いてTGAを測定するとCOを発生して重量減少し反応が進行する様子をモニターできる。反応が均一素反応で進行するので、各昇温速度で測定されたこの重量減少曲線を解析し、反応機構や活性化エネルギーを求めることが可能だ。
シリカとカーボンが不均一になっている混合物を用いるとCO以外にSiOが揮発し、重量減少曲線が複雑になる。この複雑な機構について長い間議論が続けられていたが、当方の研究成果でこの議論に終止符が打たれた。
このように熱分析では昇温速度を変えることにより、反応速度論の解析ができ、DSCを用いれば結晶化速度を求めることもできる。ゆえに日常の技術開発で活用するときにどのくらいの昇温速度を設定すればよいのか悩むことになる。
経験的にとりあえずデータをとっておこうという意味では、DSCもTGAも10℃/minでよい。時間が許されるならば5℃/minとなるが、測定に二倍の時間がかかる。PPS中間転写ベルトの開発を行っていた時には1日に10サンプル以上熱分析を行うことが日常となっていたのでこの昇温速度の問題は大きかったが、10℃/minよりも早く温度を上げて測定することは認めなかった。昇温速度を速くしすぎると、得られる情報の精度が悪くなるためだ。
カテゴリー : 高分子
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