2018.11/30 技術開発の方法
科学の成果をもとに技術開発を進める方法は20世紀にどこの企業も実践してきたことだ。当方がゴム会社に入社した時の新人研修発表会で、CTOから統計科学により導かれた結論を頭ごなしに否定された。それ以来、技術と科学について悩むことになった。
これは今から思えば大変に良い経験だったと思い出される。当方が素直にCTOの意見を受け入れることができたのは、その前に実施された1.5ケ月間の現場実習の体験があったからである。
この期間に見聞きした技術は、大半が科学の成果ではなかった(注)。当時高分子科学がゴム材料について十分な寄与をしていなかった、というよりもまさに高分子科学が大きく進歩しようとしていた時だったからである。
ダッシュポットとバネの要素モデルで研究されたゴムの世界は大きく変わった。20世紀末にはOCTAというシミュレーターまで登場し、シミュレーションを活用した材料設計の可能性が見えてきた。
このような技術開発経験から科学による技術開発の方法とそれに頼らない技術開発の方法がある、との確信に至った。
後者については一つ間違えると技術者と職人の境界が分からなくなるが、開発成果について科学の検証を加える習慣を身につければ防ぐことが可能である。
わかりやすく言えば、技術開発を行って成果を出してから科学的研究を行う、という手順を踏めば、職人に陥る心配は無くなる。またこうすることで基盤技術を伝承しやすくする。モノづくりにおいて「標準語」である点が科学の重要な役割である。
(注)同期の友はこれゆえ「この会社には科学技術が無い」と言い残して、研修終了直後転職し転職先で社長になっている。確かに「科学技術」は少なかったが、先人の努力による技術は多数息吹いていた。タイヤ設計実習発表のプレゼンは彼との技術論議についてCTOにより結論が出されたようなできごとだった。当時の社会状況では科学のつかない技術を軽蔑する風潮があったが、科学が接頭辞として着かなくても技術は技術である。これまで科学の方法に偏りすぎていただけで、技術には人類の営み同様の自由な活力が必要である。
カテゴリー : 一般
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