2018.12/06 技術開発経験談(4)
午後の時間は、当方の自由時間の様なものだった。指導社員は当方にすべて仕事を任せてくれて、当方はただ翌日の座学の最初に一日の実験報告をするだけだった。
その報告の中である日、実験方法について議論になった。材料の振動エネルギー吸収能力の評価時間が材料開発の律速段階となっていたからである。すなわち混練し加硫したサンプルについてスペクトロメーターでデータを収集していたのだが、その測定時間が2時間近くかかっていた。
当方は、目標からほど遠いサンプルについても同じ測定するのは時間の無駄で、とりあえず80Hzと10Hzの2点だけ測定すればよいのでは、と提案した。
当時開発していたのは防振ゴムであり、振動周波数の広い領域で振動を吸収できることが材料に要求されていた。しかし、高分子材料はある特定の狭い振動数の領域だけエネルギーを吸収し、それ以外はバネの効果が大きかった。
ゆえに80Hzと10Hzの二点でエネルギー吸収能力の大きい材料ができれば、それが目標の材料物性を備えていると考えた。
このエネルギー吸収能力のわかりやすい例として、室温付近にTgを有する材料でボールを作ってみると、ほとんど弾まないボールになる事例がある。
すなわち、このボールは室温付近でエネルギ吸収能力が大きいので、弾ませたときにエネルギー吸収が生じて反発できない。
測定周波数を変えながら、このエネルギー吸収の大きさをスペクトロメーターで測定していた。そして気がついたのは、80Hzで損失係数が高いときには、10Hzで低くなり、10Hzで高いときには80Hzで低くなる、という当たり前の現象だった。
目標は80Hzで測定しても10Hzで測定しても損失係数が高い材料なので、この2点だけで評価を進め、両方の周波数で条件を満たした材料だけすべての周波数で測定すればよい、と考えて評価時間の短縮を提案した。
そして用意されたすべての樹脂を1ケ月で評価し終える、と宣言したら、これは1年間のテーマだから急がなくてよい、と指導社員は応えられた。
当方は提案について指導社員が否定されなかったので、翌日から提案した方法で仕事を進め、1ケ月どころか1週間ですべての樹脂の評価を終えて、いくつか製品の候補になるような樹脂補強ゴムの配合を見つけることができた。
このような仕事のやり方について指導社員から特に注意を受けなかったので、見つけた配合について耐久試験に移ろうとしたところ、指導社員から分析グループの女性を紹介された。
そして当方が候補として選んだ樹脂以外に指導社員が評価済みの樹脂の中からいくつか樹脂を選び、それらについて細かくデータを収集するように指示を受けた。そして、作成したサンプルはすべて分析担当の女性に渡すように、とも言われた。
翌日から座学の半分の時間は、分析担当の女性が撮影した電子顕微鏡写真とゴムの製造プロセスも含めた処方の議論が行われるようになった。
この業務状態は1週間ほどで軌道に乗ったので、それから平日は夜中まで仕事をするようになった。すると評価サンプルがどんどん増えたので、分析担当の女性がもう一人つけられた。ますます仕事は加速し、3ケ月で材料開発と報告書作成が完了した。
pagetop