2018.12/19 技術開発経験談(11)
1週間に一度課内会議があり、そこで指導社員が当方のデータをまとめ報告されていた。しかし、その報告内容は、当方がその週に行った実験ではなく立案された計画に基づいた進捗に合わせていたので、すぐに報告と当方が行っている実験との乖離が生まれた。
指導社員は、この点について気にすることは無い、と言われ、その乖離について話さないように口止めされた。そのため、課長である主任研究員から過重労働の注意を受けたときには、実験が下手で失敗していますと適当に答えていた。
主任研究員は、樹脂補強ゴムの混練は難しいから十分に健康に注意しスキル向上に務めてください、と激励してくださったが、残業代が出ないことについては触れなかった。
半年間の研修で会社の規定や規則、労働法規などについて習っていたので自分の業務姿勢を多少は心配していたが、楽しさが優先され過重労働について疑問に思わなくなった。また、タイヤ開発を担当している同期から深夜残業や過重労働なんて日本の会社で常識だという声もあり、それが当たり前の習慣になっていった。
ところで、テーマを担当して2ケ月ほど経過した時に、指導社員の週報の報告が大きく変わった。急に1年後のゴールに近い内容になっていった。おそらくこの時に当方の異動の話が出ていたのだろう。
12月中旬に職場異動を通達され、当方はややショックを受けたがすでに目標の配合処方が見つかっていたので、異動までに仕事を完成させ報告書を提出します、と回答したところ、主任研究員からそこまでやらなくてよいとの、なんとも気の抜ける激励を受けた。
主任研究員は、3ケ月後職場異動するまで一度も小生の仕事ぶりを実験室に見に来なかった。恐らく不器用で肉体労働が好きで口も達者な体育会系新入社員に見えたのかもしれない。
その後無機材質研究所留学中に高純度SiCの発明を行ったとき、真っ先に研究所の受け皿になると申し出られたのはこの主任研究員で、その時には複雑な思いで部下になった。
サラリーマンは、上司の立場で部下を選ぶ権利はあるが、部下の立場では上司を円満に代える手段はない。職場における人間関係は円満が重要だが、上司との関係はゴマをするぐらいの気持ちがちょうどよい、とサラリーマンを終えて思うようになった。
若い時には、なかなかそこまでの気持ちにはなれないものだが、ゴマをすられて悪い気持ちになる人は少ない。上司が人事権を持っている組織では、業務成果をいくら上げても上司との関係が悪ければよい評価にはならないことを早いうちに理解することが大切である。
また、円満な組織風土の場合に管理者は単純に喜んではいけない。実際はゴマすりの横行しているとんでもない組織の場合もあるからだ。管理者はたとえごますりがあったとしても厳しく成果で部下を評価すべきである。
これは実践から、必ず成果を出せる風土をつくる方法の一つだと実感している。成果を出していないような人の昇進が早い組織はやがては成果が出なくなる。本来は成果の出る組織なのにそれが無い場合にはこのあたりを疑う必要がある。
当時のゴム会社の研究所は社内で成果の出ない雲の上の組織とうわさされていた。このような噂は、新入社員であれば酒の肴として尾ひれをつけて話すものである。
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