2018.12/31 1980年前後の高分子難燃化技術(2)
高分子の難燃化技術は、2000年以上前からあった、とする説もあるが、その技術開発について科学誕生前では試行錯誤により進められてきたはずである。
科学の時代となっても、この分野は学問として扱いにくく、未だに科学的に満足な研究は少ない。武田先生はその経験談を公開されているが、科学者の悩みを読み取ることができる。このような事情はやはりこの分野の研究を科学的に完璧に進めることの難しさにあると思う。
東北大村上先生は、当時先駆的な研究成果をまとめた洋書の翻訳をされているが、その研究室では研究の調査だけで終わっている。科学的に研究を進めるには、それなりの勇気のいる分野であり、当時の高分子分野には難燃化技術研究以外に面白い取り組むべき研究テーマが多数あった。
有機物材料はセラミックスと異なり、空気中で必ず燃焼する。そもそも燃焼とは急激に進行する酸化反応を意味し、実際の火災についてそれを科学的に再現可能なデータになるようにモニタリングすることが困難である。しかし、そこで諦めていては科学や技術の進歩が無い。
1980年前後の高分子の難燃化技術開発において力がいれられたのは、評価技術についてである。今はあまり使用例を聞かなくなったが、煙量を評価するアラパホメーターと呼ばれる装置があった。
煙量は、燃焼時に発生する煤の量に相関することに着目した評価装置だが、他の評価法でも煙量の直接測定手段が用意されたりしていたので、最近は見かけなくなった。この装置の優れていた点は、簡便に煙量を測定できたことである。
建築材料に関するJIS難燃2級の規格もこのとき生まれている。面白いのは同じ時代に生まれたUL規格やLOI法との考え方の違いである。UL規格は、実際の火災で発生する多数の現象を整理し、高分子材料が使用され火災に至ったときに大きな問題となる現象に着目して評価法としている。LOI法は、燃焼を継続するために必要な酸素量だけに着目した評価法である。
一方、JIS難燃2級やその後この改良版として生まれた準不燃規格は実火災の再現を目指している。この点が、UL規格やLOI法と大きく異なっており、サンプルの大きさも含め評価装置の規模が大きく扱いにくい問題がある。
TGAやDSC、TMAなどの科学的な熱分析評価法を用いて、これら多くの難燃性評価法との関係について研究レポートが登場したのもこの時代である。日本化学会の春季年会でも報告がされており、アカデミアでも高分子の難燃性を科学的に研究しようという意気込みが見られた。
pagetop