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2019.01/12 研究開発の投資タイミング

昨日中間転写ベルトの開発実話を書いたが、そこで8000万円の投資をセンター長が約束してくれた、とコンパウンド工場の投資額を書いている。しかし、コンパウンド工場の建設費としては安すぎるので奇異に感じた方がおられるかもしれない。これはすべて中古の設備で、子会社の敷地に建設したから安くできた。

 

但し、それでも利益の出ない金額である。さらに工場建設ならば設置場所との調整も含め設計期間も含め通常短くても1年以上かかる。また、8000万円の投資約束には、もし、目標とする中間転写ベルトができたなら、という条件付きなので、もし失敗していたら投資はされなかった。

 

このあたりの詳細は書きにくいこともあるが、これは実話であり、この開発過程で法に触れることがあるとしたならば当方の過重労働とコンパウンド工場建設計画が社内で知れ渡り、次第に大きくなっていったパワハラもどきの叱咤激励だけである。センター長の決断力と人柄がすべてを成功させたとしておきたい。すなわちセンター長の投資約束と人柄が無ければ中間転写ベルトは完成しなかった、といえる。

 

ゴム会社の高純度SiCについては2億4000万円の投資を頂き、高純度SiC生産のパイロットプラントと研究所の建設を行っている。SiC生成の速度論を研究するための超高温熱天秤もこの投資のおかげで開発できた。当時2000℃まで1分未満で昇温可能な熱天秤が無かったので自分で開発する必要があった。

 

この投資は当方が無機材質研究所へ留学してから一年以内に決定されている。だからこの投資は先行投資となる。一方、中間転写ベルトの開発では、半年以内に研究開発ステップのすべてを消化してから投資を受けているので、開発期間とその価格には常識はずれな点はあるが、形式上は一般投資である。さらに、各ゲートごとのデザインレビューの審査書類はすべて残っている。

 

これらの書類には捏造データはなく、各審査過程の詳細や差戻も記録されている。但し、その記録に書かれた差戻理由は優しい言葉になっており、審査中の針の筵状態の香りは、残念ながら残っていない。すべての書類は当方と部下の課長とで作成しているが、寝る時間などほとんどなかった。単身赴任中のアパートは事務所となった。

 

高純度SiCについては、過去にこの欄で詳細を書いているが、留学して半年後に人事部長からかかってきた電話のおかげで一週間だけ所長からプレゼントされた研究期間の実施成果が基になって先行投資が決まっている。すなわちたった数十ミリグラムの黄色い粉を見て社長が決定している。

 

写真会社のセンター長とゴム会社の社長とどちらの勇気があるのかと言えば、ゴム会社の社長だろう。一応センター長には当方のアイデアにより実現した中間転写ベルトの実物があった。但しそれを成形するためのコンパウンドを製造するための、手元にあった設備は二軸混練機でもなければカオス混合機でもなかった。押出成形機だけである。しかし、常識外れの押出機の操作と言う力技で一応理想とすべきコンパウンドができていたのだ。

 

一方、ゴム会社の社長には数十ミリグラムの黄色い粉しか見せることができなかった。あとは無機材研の先生方のご指導や世間に溢れていた夢の情報をちりばめたプレゼンテーションの資料だけである。社長も夢を買ったつもりで投資する、と話されていた。しかし、この社長の決断で30年以上続いた事業の研究開発体制が整った。社長は故人となったが、事業は30年後も生き続け他社へ業務移管となった。

 

 

カテゴリー : 一般

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