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2019.01/13 やりがい詐欺

東京大学本田教授のやりがい詐欺と言う言葉が引っかかっている。サラリーマン時代当方は、どんな仕事でも自分で自分を鼓舞しながらやる気を出して仕事をしてきたが、それ以外に上司はじめ周囲の激励にはそれよりも高いモラールアップ効果を感じてきた。

 

一方どこの会社でもあるかもしれないが、モラールアップした当方に冷水をかける人もいた。このような逆風(注)に対して,例えば高純度SiCの事業化では、意地でも立ち上げる思いで推進し続けた。ただ、いずれの成果の出た仕事でも仕事の対価にふさわしい賃金を頂いたことは無い。

 

ところが、当方の成果で恩恵にあやかった人たちは多い。日本化学会技術賞では、ゴム会社で全く無関係の事業を創り出したのだから最も貢献したのだろうと思っていたが、そこに名前は無い。代わりに電気粘性流体を担当していた人物の名前が入っている(公開情報からだけでもそれがわかる。またメンバーに入っていなかったから、当方に審査の依頼が来ている。このとき、おもしろいドラマがあった。)。電気粘性流体は大きなプロジェクトだったのでそれがつぶれたときに高純度SiC事業は助け舟になったことが理解できる。

 

このようなことを書くのは、いろいろとサラリーマ時代に痛い目にあったとしても、仕事を行うときに対価としての賃金以外にやりがいが無ければ人生の思い出として残るような仕事(人生の一番良い時間帯で仕事をしている時間と睡眠時間が大半を占めている。この事実を知るとお金だけで仕事を見つめる考え方が如何に人生にとってマイナスかが理解できるかもしれない)はできない。やる気もおこらず、嫌だった仕事も人生にはあったが、それらはすっかり記憶から無くなっている。

 

電気粘性流体の仕事では、増粘問題の解決や電気粘性効果に重要な3種のモデル粒子合成、難燃性油の業務の記憶はあるが、これらは極めて短時間で行われた業務である。それ以外のお手伝いとしてやらされた多数のつまらない仕事は忘れた。

 

Li二次電池のお手伝いについても、同様にすっかり忘れていたが、二次電池に関するセミナー依頼をされて、かつて福井大学電気化学講座の客員教授を依頼された背景とともに少し思い出した。ブルーレイ用レンズ開発もポリオレフィンにポリスチレンを相溶させた実験の思い出はあるが、主担当者に、このままでは失敗するからガラスでやったほうが良いと言い続けて迷惑がられたことも含めその他は忘れた。

 

やりがい詐欺という言葉が引っかかるのは、やりがいを持って行った仕事の楽しい記憶はあるが、そうでない仕事は忘れている、という体験からだ。これはどうでもよいことだが、やりがいの起きなかった仕事はすべて事業になっていない。やりがいはどのような仕事でも重要、とはドラッカーの言葉だが、引っかかっていることについて文字数の関係で今日はここまで。

 

おそらく、本田教授はドラッカーの考え方にも否定的かもしれないが、ドラッカーの基本思想は脱資本主義にある。そこには知識労働者が重要な資本で社会の中心にあり、事業の成否を決めるという考え方だ。ゴム会社で半導体用高純度SiCの事業が生まれ、それが30年以上続いた事例は高校生の時から読み続けたドラッカーの思想を具現化したものである。

 

(注)Li二次電池のテーマがセイコー電子工業とのJVとして事業化されたときに、当方はそのグループのメンバーとされた。そして上司から、ファインセラミックス研究棟内の設備を廃棄し、電池事業のための場所を提供するように命じられている。しかし、このような命令に対して役員の方に相談したところ、高純度SiCの事業化テーマは生きていること、また当方の異動は電池事業化のための短期的措置とのことを聞き、上司の命令に対して不動を決め込んだところ、いつの間にかLi二次電池の上司から解放された。それ以外に、他部署に間借りしていた設備について、勝手に廃棄処分されたり、極めつけはFD問題であった。今職場のセクハラやパワハラが問題とされ、社会全体で職場問題を取り上げているが、当方のような辛く楽しい体験もある。設備を廃棄せよ、と言った上司やFD問題はいわゆるパワハラかもしれないが、そのパワーに対してやりがいパワーで抵抗している。もっとも会社方針テーマという錦の御旗があったので、誠実真摯に行動すれば、直属上司と言えどもその活動を止めることはできなかった。当方が転職の決断をするまで職場の問題の深刻さに気がつかなかった役員にも少し困ったが、これがなかなか見えないものであることは、見える化運動の遠藤先生から学んだ。

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