活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2019.03/14 ボケ

銀塩フィルム写真が終焉を迎えようとしていた時,写真愛好家の間でボケが注目され始めた。ボケとは英語でも「BOKEH」であり、日本から生まれた表現技法の言葉のようだ。

 

写真のピンボケには、「blurred(blurの過去、過去分詞)」が使われたりしていたが、写真表現としてのボケという単語には、日本語のボケが海外でもそのまま使われている。

 

この日本語はぼけ老人としても使われたりするが、「bokeh」は、写真独特の表現技法だけに使用される。この技法は、レンズを通してオブジェクトを二次元化するときに撮影条件を満たすと写真特有の美しい世界を生み出す。

 

ボケの対極にある技法は「ヌケ」だと思っているが、これはまだ流行っていない。おそらくボケの対極の言葉として位置づけたのも当方が初めてかもしれないが、「ヌケ」と「ボケ」をバランスさせたレンズを設計するのは大変難しい。

 

なぜならボケを美しくしたいならばレンズの収差を残す必要があるからだ。収差が残れば、シャープな画像や正確な色再現は難しくなる。安いレンズで撮影した画像でヌケの悪い眠いケースがあるが、これは収差の補正がうまくできていないためである。

 

おそらくこのボケとヌケのバランスを意識的に設計したのは、ペンタックスのLimittedレンズシリーズが初めてではないか、と思っている。また、ボケのブームはこの77mmから始まっているらしい。

 

このペンタックスのレンズシリーズで撮影された画像のボケは皆美しく、特に31mmが有名だが当方は、少し絞ると大変抜けが良くなる77mmを一押しとしたい。ただし77mmは、注意しないと軸上色収差や球面収差などが原因で起きるパープルフリンジに悩まされるくせ玉である。デジカメで使用するとさらにこれが起きやすくなった。

 

どうもパープルフリンジは画像センサーの影響(写真フィルムは感光層の厚みと表面の凸凹で目立ちにくい)も出ているようだが、77mmレンズにはボケの美しさを優先して設計したためにこの欠点が残っているらしい。

 

おそらくレンズ設計やデジタル処理でこれを取り除く方法もあるかと思うが、ペンタックス77mmレンズはこのような欠点があるにもかかわらずボケとヌケのバランスを大変良く調整できるので当方のポートレート撮影には欠かせないレンズである。

 

最近ソニーのミラーレス用レンズがボケの美しさで注目されたりしているが、この85mmレンズで撮影された画像を見ると、ボケ方は大変良いのかもしれないけれど、カメラ雑誌に紹介された絞り開放の写真ではやや眠い画像と感じる作品もある。

 

また商品を紹介しているソニーのサイトに掲示された画像はニコンの様なカリッとした写真ではない。色のりは良いのだがヌケを少し悪く感じる。これは好みも依存するかもしれない。

 

ちなみにヌケの良い画像が得られてポートレート撮影で腕が上がったような錯覚になるレンズは、ニコンの85mmF1.4Dである。このレンズを用いて絞り開放で撮影したデジカメの写真は、絞り開放にもかかわらず大変シャープでヌケがよい画像が得られる。カメラのサポートもあり、目にピントがかっちりあった画像が得られる。これをモデルに見せると皆喜ぶから不思議だ。

 

もちろん絞ればさらにカリカリになり雑誌の表紙のような写真を撮れる。このレンズでポートレートを撮影すると、ボケよりもそのヌケの良さでプロのカメラマンになったような気分になれる。

 

ただしボケは少し硬く、ソニー製品を高評価しているボケ好きの老人評論家B氏によれば「汚いボケ」と言われている。しかし、このB氏が指摘するような汚さではなく当方は硬さと捉えている。ヌケが好きな人にはこの硬さもボケの一表現として気にならないはずだ。

 

おまけに、新しい設計のニコン85mmF1.4Gと比較しても前ボケと後ろボケのバランスが良いレンズだ。WEBで作例を比較してみると、絞りリングの無い85mmでは、後ろボケはやや1.4Dよりも柔らかくなってはいるが、前ボケは少し硬いようなイメージがある。

 

このようにポートレート用レンズとしていろいろなレンズを比較をしてみると、ペンタックス77mmレンズは古い設計なのでパープルフリンジの欠点を抱えている問題はあるが、当方が知る限りヌケとボケの最もバランスが取れ、さらにコントラストも高く色のりもよいポートレート用として最も優れたレンズと思っている(これは主観である。)。

 

ちなみにポートレートはこのレンズで撮影することが多く、例えば、八景島ボディーペインティング世界大会写真の部でこのレンズで撮影した写真が一席を獲得している。

 

レンズの光学技術は、科学で完璧に説明されつくした分野のように思っていたが、ボケとヌケのバランスをとるとなると、科学知識だけでは難しく美に対する見識が必要と思っている。

 

写真を芸術の一分野とするならば、レンズ設計技術は官能の世界で行われる作業の成果にも思われ、科学知識だけでは難しいのではないか。かつて多変量解析で車のデザインと色の関係を研究した論文を読んだが、統計手法で得られた結果を説明するために人間の目がナノオーダーの領域まで見ていると考えなければ説明できない、という考察が書かれていたのが印象的だった。

 

ニコンはぜひ官能評価も取り入れてレンズ設計して欲しい。新しいZマウントの35mmは大変ヌケとボケのバランスの良い写真が撮れるが、なぜかその結果に人工的な匂いを感じる。

 

 

カテゴリー : 一般

pagetop