2019.04/26 無機高分子の合成
有機合成化学は1970年代にコーリー博士の逆合成という概念が提案され、そのデザイン手法がコンピューターのアルゴリズムで取り扱われるようになった。さらに、有機金属化合物の合成研究が発展した20世紀に、その学問体系がほぼ整備された。
有機金属化合物では、低分子化合物だけでなく高分子化合物も開発された。例えばフェロセンポリマーという物質も合成されている。有機ケイ素高分子も多数開発され、東北大故矢島先生により有機ケイ素高分子からSiC繊維を製造する技術も1970年代に開発されている。
当方が発明したフェノール樹脂とポリエチルシリケートとのリアクティブブレンドによる高純度SiC合成法は、この矢島先生のご研究から6年後に成功している。矢島先生のご研究はポリジメチルシランを炭素繊維と同様の方法で熱処理する製造法だが、当方の方法は前駆体であるポリマーアロイを製造するリアクティブブレンド技術にその特徴がある。
これは、科学的に考えていては開発できない方法で、頭がよければ誰でもできるわけではない技術開発手法で合成された前駆体だから科学者には少し難易度が高い。そもそも混合プロセス段階はフローリーハギンズ理論によりその現象が否定されるような前駆体である。科学と技術とはどこが異なるのか、という命題について知りたいなら、この前駆体の合成プロセスをよく考察していただければわかりやすいと思う。
論理のち密さが重要という理由で、科学は頭の良い人でなければそのブレークスルーが難しいが、技術は多少頭が悪くともその開発が可能だ。ちなみに人類による技術開発の活動は4000年以上昔から行われている。中国4000年の歴史が日本に影響を与えたが、それよりもはるか昔から技術開発は人類の日々の生活の営みとして行われてきた。
日々の営みを自然とうまく調和する努力のできる人類が技術を開発してきた。この意味では、頭の良し悪しよりも、性格の素直さが技術者には重要だと思っている。
技術開発の歴史を眺めたときに、現代の有機合成技術者を高度な研究者集団としてみなすのは、もはや時代遅れである。1980年代からすでに有機合成技術者は知識労働者の一人になっている。なぜなら21世紀にはいってから有機合成分野において新たな概念は生まれていない。無機高分子合成化学に至っては無機高分子研究会設立以降ノーベル賞級の新しい概念は生まれていない。
カテゴリー : 高分子
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