2019.05/10 高分子材料の融点
物質の融点とは、結晶の自由エネルギ関数と融体の自由エネルギ関数の交点、というのが熱力学的説明である。ここで両者が交点を持つかどうかだが、δG=δH-TδSであり、融体は分子の熱運動が大きいので結晶のエンタルピー(S)よりも大きくなり自明である。
無機材料の結晶では、この熱力学の形式知通りとなるが、高分子では、そもそも融点(Tm)と結晶化温度(Tc)にずれが生じるから厄介である。
例えば結晶性良好なポリエチレンでは、Tmの0.8から0.9倍がTcの最大値となるが、結晶性の悪いPETについては、2Tc(最大値)=Tm+ガラス転移温度(Tg)という関係式も提案されている。すなわち、高分子の種類によりTmとTcのズレがまちまちなのだ。
さらにこのずれは高分子の配合処方によっても変化する。一般に高分子に溶解しやすい低分子を配合するとTmは下がるが、Tcはそれほど変化しない。中にはTcに大きな影響を与える化合物も存在し、それは高分子結晶の核剤として知られている。
高分子のTcに影響を与える添加剤には、Tcを下げるものと上げるものがある。結晶化を促進する添加剤はよく知られているが、結晶化を遅らせたり、結晶化を抑制したりする化合物は探さなければ見つからない。
すなわち、TmやTcをとりあえず自由に制御できる技術はある。ただ、この技術に関して体系的な形式知が高分子では存在していない。無機材料では、相図で考察することになるのだが、高分子ではうまくゆかない。だから特許を書くことが可能になる。
カテゴリー : 高分子
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